資産除去債務のやさしい解説

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やさしい解説|資産除去債務(基準を読む前に)

建物や機械を使い終わったら、片づけにお金がかかる。しかも、その片づけが法律や契約で決まっていることがある。資産除去債務は、「あとで必ず払う片づけ代を、先に負債として決算書に載せておく」ルールだ。この記事では、基準の文章を読む前に知っておきたい考え方を、順番にほどいていく。

1.まず、用語をざっくり

用語ひとことで言うと
資産除去債務建物・機械などを使ったあと、片づける(除去する)ために払わなければならない義務。法令や契約で求められるもの、またはそれに近いもの
有形固定資産建物・機械・設備のように、形があって長く使う資産
除去資産を使うのをやめて、使う場から外すこと。売る、捨てる、リサイクルするなどが入る。転用や用途変更は入らない
除去費用片づけにかかるお金。基準では、負債に載せた額と同じ額を資産にも足す
割引前の将来キャッシュ・フロー将来払うと見込む金額そのもの。「今の価値」に直す前の数字
割引価値(現在価値)将来払う金額を、今の価値に直した金額
割引率将来の金額を今の価値に直すときに使う率。この基準では、無リスクの率を使う
帳簿価額帳簿に載っている金額
時の経過による調整額時間がたって、負債がふくらんだ分。毎期、費用にする
資産負債の両建処理負債と資産に、同じ額を両方載せるやり方。この基準が採る処理

2.そもそも何?

身近な例え話

店舗を借りるとき、「出ていくときは元の状態に戻して返す」と契約に書いてあることがある。工事代が100万円かかると分かっていても、払うのは出ていくときだ。それまでは、決算書のどこにもその100万円は見えない。

資産除去債務は、この「あとで払う100万円」を、約束した時点で負債として載せる。そして、同じ額を資産にも足し、使う期間にわたって少しずつ費用にしていく。

何が問題だったのか

これまでの日本では、電力会社の原子力発電施設の解体引当金のような特定の例はあったが、除去の費用を負債として載せ、同時に資産にも足す処理は行われていなかった(意見書22項)。そこで、将来の負担を財務諸表に反映させることは投資情報として役立つ、という指摘から、基準がつくられた。

基準の言い方

基準3項(1)は、資産除去債務を「有形固定資産の取得、建設、開発又は通常の使用によって生じ、当該有形固定資産の除去に関して法令又は契約で要求される法律上の義務及びそれに準ずるもの」と定義している。ほどくと、次の3つだ。

①資産を手に入れた・つくった・ふつうに使ったことで生じる。②片づけが、法令や契約で求められている。③「それに準ずるもの」も入る。これは、履行を免れることがほぼ不可能な義務をいう。

だから、企業が自分で決めた計画だけで除去する場合は入らない(意見書28項)。また「通常の使用」とは、有形固定資産を意図した目的のために正常に稼働させることをいう。不適切な操業などの異常な原因で生じた義務は、この基準の対象ではない(意見書26項)。

3.似た処理とのちがい

片づけ代の処理には、もう1つの考え方がある。「引当金処理」だ。ちがいを表にまとめる(意見書32項・33項・34項)。

見るところ資産負債の両建処理(基準が採用)引当金処理
考え方債務の全額を負債に計上し、同額を有形固定資産の取得原価に反映させる除去サービスの費消を、使用に応じて各期に費用配分し、それに対応する金額を負債として認識する
貸借対照表除去に必要な金額が、負債として載る除去に必要な金額が載らない。そのため負債計上が不十分だという意見がある
費用の出方減価償却を通じて、使用に応じて各期に費用配分される使用に応じて、各期に適切な形で費用配分される
基準の判断両建処理を求めた。引当金処理を包摂するものといえる採用しなかった

もう1つ、まぎらわしいものがある。有形固定資産を使っている期間中に行う環境修復や修繕だ。これは、基準の定義(除去に関して要求される義務)に当たらないので、対象にならない。修繕引当金は、収益との対応を図るために、当期の負担に属する金額を計上するための貸方項目だ。債務ではない引当金と整理されている場合が多い。また、操業停止や対象設備の廃棄をした場合には不要となる点で、資産除去債務と異なる(意見書24項・25項)。

4.流れは3ステップ

ステップ1 負債は、いくらで載せる?

除去に要する、割引前の将来キャッシュ・フローを見積り、割引後の金額(割引価値)で負債にする(6項)。

見積りは「自己の支出見積り」。生起する可能性の最も高い単一の金額、または複数の見積りを発生確率で加重平均した金額を使う。直接要する支出のほか、処分に至るまでの支出(保管や管理のための支出)も含める。割引率は、貨幣の時間価値を反映した無リスクの税引前の利率だ。

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ステップ2 相手の勘定は、どこ?

負債に載せた額と同額を、関連する有形固定資産の帳簿価額に加える(7項)。別の資産にはしない。

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ステップ3 毎期、何が起きる?

①資産に足した除去費用は、減価償却を通じて、残存耐用年数にわたり各期に費用配分する(7項)。

②負債は、時間がたつとふくらむ。この調整額は、期首の負債の帳簿価額に、当初負債計上時の割引率をかけて計算し、その発生時の費用にする(9項)。

5.数字で追ってみよう

ここでは、適用指針の設例1をもとにした数字を使う。数字は例で、単位は省略する。

設備の取得日20X1年4月1日(決算日は3月31日)
取得原価・耐用年数10,000・5年(残存価額0、定額法)
除去のときの支出の見積り1,000(取得時にのみ発生)
割引率3.0%

ステップ1 取得したとき(20X1年4月1日)

負債は、1,000 ÷ (1.03を5回かけた数)= 863。同じ額を設備に足すので、設備は10,000 + 863 = 10,863になる。仕訳は、(借方)有形固定資産10,863/(貸方)現金預金10,000、資産除去債務863。

ステップ2 毎期の減価償却

(10,000 + 863)÷ 5年 = 2,172.6。端数を整えて、各期2,173とする。最後の年だけ、合計が10,863になるよう2,171とする。

ステップ3 毎期の負債のふくらみ

決算日期首の負債調整額(×3%)期末の負債減価償却費
20X2年3月31日863268892,173
20X3年3月31日889279162,173
20X4年3月31日916279432,173
20X5年3月31日943289712,173
20X6年3月31日971291,0002,171

負債は、863から始まって、5年後にちょうど1,000になる。毎期の費用は、「減価償却費」と「時の経過による調整額」の合計だ。たとえば初年度は、2,173 + 26 = 2,199になる。

除去したとき(20X6年)

実際の支出が1,050だったとする。負債の残高1,000との差額50は、費用に計上する(設例1)。損益計算書では、原則として、除去費用に係る費用配分額と同じ区分に含める(15項)。

6.つまずきポイントを解決

Q1.なぜ、引当金ではなく「負債」と「資産」の両建てなのか?

引当金処理だと、除去に必要な金額が貸借対照表に載らず、負債計上が不十分だという意見がある。一方、両建処理は、除去費用を取得原価に含めて減価償却で各期に費用配分するので、引当金処理を包摂するといえる。さらに、国際的な会計基準とのコンバージェンスにも資するからだ(意見書34項)。

Q2.なぜ、除去費用を、別の資産ではなく有形固定資産の帳簿価額に足すのか?

負債を計上すると同時に、対応する除去費用を取得原価に含めることで、その資産への投資について回収すべき額を引き上げることになる(意見書41項)。別の資産にしない理由は、除去費用が法律上の権利ではなく財産的価値もないこと、独立して収益獲得に貢献するものではないことだ。そして、有形固定資産の稼動にとって不可欠なので、取得に関する付随費用と同様に処理する(意見書42項)。

Q3.なぜ、見積りは「自己の支出見積り」なのか?

自己の支出見積りは、原状回復における過去の実績や、処理作業の標準的な料金の見積りなどが基礎になる。企業の投資上、資産の除去は、通常、単独ではなく有形固定資産の投資プロジェクトの一環として行われる。だから、その有形固定資産の耐用年数にわたって、効率性を反映させていくほうが妥当だと考えられた(意見書38項)。

Q4.なぜ、割引率は「無リスク」の率なのか?

意見書40項は、次の3点を挙げる。①退職給付債務の算定でも無リスクの割引率が使われている。②同じ内容の債務なのに、信用リスクの高い企業のほうが高い割引率を使うせいで負債計上額が少なくなるのは、財政状態を適切に示さない。③資産除去債務の性格上、自らの不履行の可能性を前提とする会計処理は適当ではない。また、資産除去債務は明示的な金利キャッシュ・フローを含まない債務なので、退職給付債務と同様に無リスクの割引率を用いるのが、会計基準全体の体系と整合的だとされた。

なお、将来キャッシュ・フローが見積値から乖離するリスクは、割引率ではなく、将来キャッシュ・フローの見積りのほうに反映する(適用指針5項)。

Q5.なぜ、割引率は途中で変えず、負債計上時のままにするのか?

割引率を毎期見直すと、毎期末に変更後の負債額を貸借対照表に反映することになり、他の負債の取扱いとの整合性に問題があるとの意見があった。また、負債計上時の割引率に固定する方法は、時の経過によって一定の利息相当額を配分するものであり、有形固定資産に減価償却という費用配分が行われることとも整合的だと考えられる(意見書49項)。

Q6.なぜ、有害物質の除去義務は対象になるのか?

有形固定資産自体を除去する義務がなくても、将来、除去の時点で有害物質を除去することが不可避的であるなら、現時点でその除去義務が存在すると考えざるを得ないからだ。ただし、計上の対象になるのは、除去費用の全体ではなく、有害物質の除去に直接関わる費用だけだ(意見書29項)。

7.処理したあとは、どうなる?

  • 貸借対照表:固定負債の区分に、資産除去債務などの適切な科目名で表示する。貸借対照表日後1年以内に履行が見込まれる場合は、流動負債の区分に表示する(12項)。
  • 損益計算書(費用配分額):資産に足した除去費用の費用配分額は、関連する有形固定資産の減価償却費と同じ区分に含める(13項)。
  • 損益計算書(時の経過による調整額):これも、減価償却費と同じ区分に含める(14項)。
  • 履行時の差額:資産除去債務の残高と、実際に支払った額との差額は、原則として、費用配分額と同じ区分に含める(15項)。
  • 注記:重要性が乏しい場合を除き、①資産除去債務の内容についての簡潔な説明、②支出発生までの見込期間・適用した割引率等の前提条件、③総額の期中における増減内容、④見積りを変更したときの概要と影響額、⑤合理的に見積れず計上していない場合の概要・その旨・理由、を注記する(16項)。
  • キャッシュ・フロー計算書:履行したときの支出額は「投資活動によるキャッシュ・フロー」に入れる。重要な資産除去債務を計上したときは「重要な非資金取引」として注記する(適用指針12項・13項)。

8.おまけ:応用論点

  • 見積りの変更:割引前の将来キャッシュ・フローに重要な見積りの変更があったときは、調整額を、負債と関連する有形固定資産の帳簿価額に加減する(10項)。増える場合は、その時点の割引率を使う。減る場合は、負債計上時の割引率を使う(11項)。
  • 合理的に見積れない場合:計上せず、見積れるようになった時点で負債に計上する(5項)。この場合は注記が必要だ(16項(5))。
  • 使用の都度発生する場合:各期に資産計上して費用配分する。いったん資産に計上し、同じ期間に同じ金額を費用処理する方法も認められる(8項)。
  • 敷金が資産計上されている場合:その部分は、負債計上と資産計上に代えて、敷金の回収が見込めない額を見積り、当期の負担分を費用に計上する方法によることができる(適用指針9項)。

9.まとめ

ひとことで言うと

資産除去債務は、「使ったあとの片づけ代」を、割引価値で負債に載せ、同額を資産に足して、減価償却で費用にしていくルール。負債のほうは、毎期ふくらむ分を費用にして、最後は見積りの額になる。

試験で問われやすい3点

  • 定義:資産除去債務の定義(取得・建設・開発・通常の使用、法令又は契約、準ずるもの)と、「除去」の意義・具体的態様。H29とR5の両方で問われた。
  • 測定と処理の言葉:自己の支出見積り、最頻値・期待値、発生確率、貨幣の時間価値を反映した無リスクの税引前の利率、帳簿価額に加える、期首の負債の帳簿価額×当初負債計上時の割引率。計算問題も、この流れだ。
  • 理由・論述:資産負債の両建処理と引当金処理、無リスクの割引率を使う理由、会計処理の目的(将来の負担を財務諸表に反映させ、投資情報として役立てる)。

基準の文言を確かめたいときは、同じシリーズの「穴埋め」記事へ。理解を試したいときは「一問一答」記事へ進もう。

出典:企業会計基準第18号「資産除去債務に関する会計基準」(2008年公表、2024年9月改正。項番は同基準の項)、企業会計基準適用指針第21号「資産除去債務に関する会計基準の適用指針」(設例1をもとにした数字例)。「意見書」は、基準の「結論の背景」の項を指す。

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