【令和5年不動産鑑定士試験】民法 解答例

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答案構成の3つのパターン

パターン1(要件充足型)
条文の要件に事実を当てはめれば一発で結論が出る。対立する原則はない。
→【問題提起】【規範】【あてはめ】【結論】の1段構成。

パターン2(原則・例外型)
一般原則を適用すると通常の結論になるところ、特殊事情によってその結論が覆る・制限される。
→「1.原則論」「2.論点・例外」の2段構成。もっとも・しかしで転換する。

パターン3(論点先行・積み上げ型)
対立する原則はないが、複数の論点を順番にクリアしないと結論に届かない。
→【問題提起】【規範】【あてはめ】を、次にで繋ぎながら必要な数だけ繰り返す。

問題1 無権代理と表見代理・本人による無権代理人の相続

(1) 無権代理行為と抹消登記請求(パターン2)

  • 代理人が権限内で本人のためにすることを示してした意思表示は、本人に直接効力を生ずる(99条1項)
  • 代理権のない者が他人の代理人としてした契約は、本人が追認しなければ本人に効力を生じない(113条1項)
  • 代理人が権限外の行為をした場合において、第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるときは、代理権授与表示による表見代理の規定(109条1項本文)を準用し、本人が責任を負う(110条)
  • 夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他方は、これによって生じた債務について連帯して責任を負う(761条本文)

1.原則論

【問題提起】
AはCに対し、所有権に基づく妨害排除請求として、甲土地の所有権移転登記の抹消を求めている。そこで、この請求が認められるかが問題となる。

【規範】
この点、代理権のない者が他人の代理人としてした契約は、本人が追認しなければ本人に効力を生じない(113条1項)。契約の効力が本人に及ばない以上、所有権は移転せず、実体に符合しない登記は無効である。したがって、所有者は、その登記の抹消を請求できる。

【あてはめ】
本件では、Aは甲土地を婚姻前に自己の収入で買い受けて所有権を取得し、登記を経由している。BはAに無断で、Aの代理人としてCと売買契約を締結しており、BにAからの代理権授与はない。Aは追認もしていない。よって、本件売買契約はAに効力を生じず、A名義からC名義への移転登記は実体に符合しない。

【結論】
原則として、Aの抹消登記請求は認められる。

2.論点・例外

【問題提起】
しかし、CはBがAの配偶者であることを根拠に表見代理を主張し、売買の効力がAに及ぶと反論する。そこで、夫婦の日常家事代理権(761条)を基礎として110条の表見代理が成立するかが問題となる。

【規範】
この点、761条は、日常の家事に関する法律行為について夫婦が相互に代理権を有することを前提とした規定である。そのため、日常家事代理権は110条の基本代理権となりうる。

もっとも、日常の家事の範囲を超える行為にまで110条をそのまま適用すると、夫婦各自の財産的独立が損なわれる。同条の趣旨は、夫婦の一方が婚姻前から有する財産や自己の名で得た財産は、その者の特有財産とする点にある(762条1項)。かかる趣旨に照らせば、相手方が、行為が日常の家事の範囲内にあると信ずべき正当な理由を有するときに限り、110条の趣旨を類推適用できると解する。

【あてはめ】
本件では、甲土地はAが婚姻前に取得した特有財産(762条1項)であり、その売却は日常の家事にあたらない。Cに日常の家事の範囲内と信ずべき正当な理由があるかを検討する。土地の売買は高額で重大な取引である。AがBに実印や権利証を預けていた事情や、売却が生活費調達に必要であるとの事情は、問題文に示されていない。そうした事情がない以上、Cに正当な理由は認められない。

【全体の結論】
したがって、110条の類推適用は成立せず、Aの請求は認められる。


(2) 本人による無権代理人の単独相続(パターン3)

  • 無権代理人がした契約は、本人が追認しなければ本人に効力を生じない(113条1項)
  • 追認は、別段の意思表示がないときは、契約の時にさかのぼって効力を生ずる(116条本文)
  • 無権代理人は、自己の代理権を証明したとき、又は本人の追認を得たときを除き、相手方の選択に従い履行又は損害賠償の責任を負う(117条1項)
  • 117条1項は、①相手方が悪意のとき、②相手方に過失があるとき(ただし、無権代理人が自己に代理権がないことを知っていたときは除く)、③無権代理人が行為能力の制限を受けていたときは、適用しない(117条2項)
  • 相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する(896条本文)

【問題提起①】
Bの死亡によりAが単独相続し、本人と無権代理人の地位が同一人に帰属した。そこで、Aが追認を拒絶して抹消登記を請求できるかが問題となる。

【規範①】
この点、本人が追認しなければ、契約は本人に効力を生じない(113条1項)。追認の有無は本人の自由であり、無権代理行為をしていない本人から追認拒絶権を奪うべき理由はない。そうだとすれば、本人が無権代理人を相続しても、追認拒絶権は失われないと解する。

【あてはめ①】
本件では、AはBの行為に追認も追認拒絶もしない間にBを相続したにすぎず、無権代理行為自体には関与していない。である以上、Aは追認を拒絶でき、売買契約はAに効力を生じない。

【小結論①】
よって、Aは追認拒絶により、抹消登記請求の根拠を有する。

次に、Aが相続によりBの無権代理人としての責任を承継するかを検討する。

【問題提起②】
Aは、相続によりBの権利義務を承継する(896条本文)。そこで、Bの117条1項の責任をAが承継し、Cの履行請求に応じなければならないかが問題となる。

【規範②】
この点、無権代理人は、代理権を証明できず本人の追認も得られないときは、相手方の選択に従い履行又は損害賠償の責任を負う(117条1項)。もっとも、相手方が悪意のとき、相手方に過失があるとき(無権代理人が悪意の場合を除く)、無権代理人が行為能力の制限を受けていたときは、責任を負わない(117条2項)。無権代理人の責任は相続の対象となり、相続人は同様の責任を負うと解する。

【あてはめ②】
本件では、Bは代理権を証明しておらず、Aの追認もない。Cが代理権のないことを知っていたとの事情はなく(117条2項1号)、Bが行為能力の制限を受けていたとの事情もない(同項3号)。(1)の前提により、Cには正当な理由がなく、過失があるとも考えうる(同項2号本文)。しかし、Bは、自己に代理権がないことを知りながら、Aの代理人として売買契約を締結し、売買代金を遊興費に使い果たしている。という事情に照らせば、Bは自己に代理権がないことを知っていたと評価できる。よって、同項2号ただし書により、Cに過失があってもBは免責されない。AはこのBの責任を承継する。

【全体の結論】
以上より、Aは追認を拒絶できるものの、Bの117条1項の責任を承継する。Cが履行を選択した場合、Aは甲土地の所有権移転と登記を履行すべき立場にあり、抹消登記請求は認められない。Cが損害賠償を選択した場合には、Aの請求自体は認められるが、AはCに対して損害賠償責任(支払われた代金相当額を含む)を負う。


問題2 借地権の対抗力と更新

(1) 土地譲受人からの建物収去土地明渡請求(パターン2)

  • 賃貸借は、登記したときは、その不動産について物権を取得した者その他の第三者に対抗できる(605条)
  • 借地権は、その登記がなくても、土地の上に借地権者が登記されている建物を所有するときは、第三者に対抗できる(借地借家法10条1項)
  • 借地権とは、建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権をいう(借地借家法2条1号)
  • 賃貸借の対抗要件を備えた不動産が譲渡されたときは、賃貸人たる地位は譲受人に移転する(605条の2第1項)
  • 賃貸人たる地位の移転は、所有権移転登記をしなければ、賃借人に対抗できない(605条の2第3項)

1.原則論

【問題提起】
CはBに対し、所有権に基づき、乙建物の収去と甲土地の明渡しを求めている。そこで、この請求が認められるかが問題となる。

【規範】
この点、土地所有者は、権原なく土地を占有する者に対して、建物収去土地明渡しを請求できる。

【あてはめ】
本件では、CはAから甲土地を買い受け、所有権移転登記を経由している。Bは甲土地上に乙建物を所有して土地を占有している。

【結論】
Bに占有権原がなければ、Cの請求は認められる。

2.論点・例外

【問題提起】
しかし、Bは甲土地の賃借人であり、賃借権の登記がない(605条)にもかかわらず、新所有者Cに賃借権を対抗できるかが問題となる。

【規範】
この点、建物の所有を目的とする土地の賃借権は借地権にあたる(借地借家法2条1号)。借地権は、その登記がなくても、借地権者が土地上に登記された建物を所有するときは、第三者に対抗できる(借地借家法10条1項)。

【あてはめ】
本件では、本件賃貸借は居住用建物の所有を目的とする土地賃貸借であり、借地権にあたる。Bは、令和3年3月25日に乙建物を完成させ、所有権保存登記をしている。この登記は、Cが甲土地を譲り受けた約2年後より前にされている。という事情に照らせば、Bは、Cが所有権を取得した時点で、借地権の対抗要件を備えていたと評価できる。よって、Bは借地権をCに対抗できる。Cは所有権移転登記を経由しているため、賃貸人たる地位はCに移転しており(605条の2第1項・3項)、BはCに対して占有権原を主張できる。

【全体の結論】
したがって、Cの請求は認められない。


(2) 期間満了時の明渡請求(パターン3)

  • 借地権の存続期間は30年とする。ただし、契約でこれより長い期間を定めたときは、その期間とする(借地借家法3条)
  • 借地借家法のこの節の規定に反する特約で借地権者に不利なものは、無効とする(借地借家法9条)
  • 存続期間が満了する場合に借地権者が更新を請求したときは、建物がある場合に限り、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。ただし、借地権設定者が遅滞なく異議を述べたときは、この限りでない(借地借家法5条1項)
  • 5条の異議は、双方の土地使用の必要性、従前の経過、土地の利用状況、土地明渡しの条件として又は引換えにする財産上の給付の申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ述べることができない(借地借家法6条)
  • 更新後の期間は、更新の日から10年(最初の更新は20年)。当事者がこれより長い期間を定めたときは、その期間とする(借地借家法4条)

① 明渡請求の可否

【問題提起①】
Cは「当初の20年の契約期間満了後、相当の年月が経つ」ことを理由に明渡しを求める。そこで、まず本件賃貸借の存続期間が何年か、及び期間満了により契約が終了するかが問題となる。

【規範①】
この点、借地権の存続期間は30年であり、これより長い期間を定めたときはその期間となる(借地借家法3条)。これより短い期間の特約で借地権者に不利なものは無効である(借地借家法9条)。

【あてはめ①】
本件では、約定の存続期間は20年であり、30年に満たない。よって、この特約は無効となり、存続期間は30年となる。令和2年12月1日から30年が満了するのは令和32年11月30日であり、Cの請求はちょうど存続期間の満了時にされたことになる。

【小結論①】
Cの主張する「20年の期間満了」は成立せず、令和32年11月30日が満了日である。

次に、Bの更新請求と、Cの異議に正当事由があるかを検討する。

【問題提起②】
Bは更新を求めており、Cは明渡しを求めている。そこで、更新が認められるか、すなわちCの異議に正当の事由があるかが問題となる。

【規範②】
この点、存続期間が満了する場合に借地権者が更新を請求したときは、建物がある限り、従前の契約と同一の条件で更新したものとみなされる。ただし、借地権設定者が遅滞なく異議を述べたときは、この限りでない(借地借家法5条1項)。異議は、双方の土地使用の必要性のほか、従前の経過、土地の利用状況、及び立退料等の申出を考慮して、正当の事由がある場合に限り述べることができる(借地借家法6条)。

【あてはめ②】
本件では、Bは満了時に更新を請求しており、乙建物も存在する。Cは直ちに明渡しを求めており、遅滞なく異議を述べたと評価できる。そこで、正当事由の有無を検討する。Cは、来年6月に結婚する長男夫婦のために建物を新築したいと考えており、一定の使用の必要性はある。しかし、Bは、家族4人で乙建物に居住しており、明渡しを受ければ住む場所を失う。乙建物は築30年弱でまだ老朽化していない。さらに、CはBに立退料を支払う意思がなく、明渡条件としての財産上の給付の申出もない(借地借家法6条)。という事情に照らせば、Cの使用の必要性がBの必要性を上回るとはいえず、正当の事由は認められない。

【全体の結論】
したがって、Cの異議は6条の正当の事由を欠いて無効であり、契約は従前と同一の条件で更新されたものとみなされる(借地借家法5条1項)。Cの請求は認められない。

② 次に明渡請求が認められる可能性が生じる時期

【問題提起】
①の更新により、契約の存続期間が何年延びるかが問題となる。

【規範】
この点、借地権設定後の最初の更新の場合、更新後の期間は更新の日から20年である(借地借家法4条)。

【あてはめ】
本件では、令和32年12月1日の更新は設定後の最初の更新にあたる。更新後の期間は20年であり、令和52年(2070年)11月30日に満了する。

【結論】
以上より、Cの明渡請求が認められる可能性が次に生じるのは、更新から20年後(令和52年11月30日の存続期間満了時)である。もっとも、その時点でも、Bの更新請求に対するCの異議に正当の事由があることが必要である。


なお、時効に関する規定は、事案に関係しないため検討していない。

出題の要旨

国土交通省HPのコピペです。

【問題1】
設問⑴は、日常家事に関する債務の夫婦連帯責任(民法 761 条)と日常家事に関する法律行為の夫婦相互代理権、さらに、同代理権と表見代理(民法
110 条の趣旨を類推適用)についての基本的な理解を問うものである。
設問⑵は、無権代理と相続についての基本的な理解を問うものである。本人の追認拒絶権(民法 113 条)と無権代理人の責任(民法 117 条)の有無お
よび内容を丁寧に論じる必要がある。
【問題2】
本問は、借地権が設定された土地の所有権譲渡と借地権の対抗力、ならびに借地権の更新請求とその拒絶(異議)、正当事由の関係等についての基本
的な理解を問うものである。
設問⑴では、借地権者が土地の新所有者に対抗することができるかについて、民法 605 条、借地借家法 10 条 1 項の関係とその趣旨に関する正確な理解
を求めている。
設問⑵では、賃貸人の地位の移転と、民法と借地借家法の関係を前提に、借地借家法 3 条~6 条を具体的な事件にあてはめて検討し、的確な結論を導
けることを求めている。

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