【令和3年不動産鑑定士試験】民法 解答例

令和3年度 不動産鑑定士試験 論文式 民法

黄色のマーカーは、判例・学説で固まっている解釈の言い回し。答案でそのまま書けるように覚える。

答案の型(クリックで表示)
パターン1(要件充足型)
条文の要件に事実を当てはめれば結論が出る。対立する原則はない。
【問題提起】→【規範】→【あてはめ】→【結論】の1段構成。
パターン2(原則・例外型)
一般原則を適用すると通常の結論になるが、特殊事情によってその結論が覆る、又は制限される。
「1.原則論」【問題提起】【規範】【あてはめ】【結論】
「2.論点・例外」【問題提起】(しかし〜が問題となる)【規範】【あてはめ】【全体の結論】
論点の規範は法規範の要約でよい。趣旨からの理由付けが必要な解釈規範の場合のみ趣旨を書く。
パターン3(論点先行・積み上げ型)
対立する原則はないが、複数の論点を順番にクリアしないと結論に届かない。
【問題提起①】【規範①】【あてはめ①】【小結論①】を「次に、〜について検討する。」で繋ぎ、②③…と続け、最後に【全体の結論】。

問題1 不動産の二重譲渡と登記

(1) 二重譲渡と登記(パターン1)

問題文(クリックで表示)

Xは、令和3年2月1日、Aより甲土地(時価1,500万円)を譲り受け、その引渡しを受けた。Yは、同年4月1日、同じくAより甲土地を譲り受け、その所有権移転登記を経由した(以下、この段落の事実を「本件事実」という。)。

Xは、Yに対し、甲土地につき所有権に基づく所有権移転登記手続請求をした。この請求が認められるか論じなさい。

関連条文(クリックで表示)
  • 不動産に関する物権の得喪及び変更は、登記をしなければ、第三者に対抗することができない(177条)
【問題提起】

Xは、甲土地をAから譲り受けたが、登記を備えていない。他方、同じくAから譲り受けたYは、所有権移転登記を経由している。そこで、XがYに対し、登記なくして甲土地の所有権取得を対抗でき、所有権移転登記手続を請求できるかが問題となる。

【規範】

この点、不動産に関する物権の得喪及び変更は、登記をしなければ、第三者に対抗することができない(177条)。177条の第三者とは、当事者及びその包括承継人以外の者で、登記の欠缺を主張する正当な利益を有する者をいい、同一の不動産について両立しない物権を取得した者(二重譲渡の譲受人)はこれにあたる。二重譲渡の譲受人相互の優劣は、契約の先後ではなく、先に登記を備えたかによって決まる。不動産の引渡しは、対抗要件ではない。

【あてはめ】

本件では、XとYは、いずれもAから甲土地を譲り受けており、両立しない所有権を取得した関係にあるから、Yは177条の第三者に該当する。Xは、先に譲り受けて引渡しを受けているが、引渡しは対抗要件ではなく、登記を備えていない。他方、Yは、所有権移転登記を経由している。Yが先に登記を備えたという事情に照らせば、XはYに対し、甲土地の所有権取得を対抗できない。本件事実のみでは、Yが登記の欠缺を主張することが信義に反するといった事情は見当たらない。

【結論】

Xは、Yに対し、登記なくして所有権取得を対抗できず、Xの請求は認められない。

(2) 背信的悪意者(パターン2)

問題文(クリックで表示)

Xは、令和3年2月1日、Aより甲土地(時価1,500万円)を譲り受け、その引渡しを受けた。Yは、同年4月1日、同じくAより甲土地を譲り受け、その所有権移転登記を経由した(以下、この段落の事実を「本件事実」という。)。

本件事実に加えて、つぎの事実が判明している。

Yは、甲土地はXが買い受けたものであることを十分熟知していたにもかかわらず、他の土地のことでXとの間に争いがあり、Xに対し恨みをいだいていたところより、甲土地につきXがいまだその所有権取得登記を了していないのを奇貨として、Xに対し復讐する意図の下に、甲土地を自己が取得しようとたくらんだ。Aは、甲土地はすでにXに売渡し済みのものであるから、いちおうはYの上記申入を拒絶したものの、Yが「もし訴訟になっても自分が責任をもつゆえ売り渡してもらいたい」と強く要求するのに拒みかね、かつ、なにがしかの売却代金を入手できる利益も手伝って、ついに、令和3年4月1日、Yとの間に甲土地の売買契約を締結した。しかし、当時甲土地は少なくとも1,500万円くらいの価額を有していたにもかかわらず、YはAよりわずか代金130万円というはなはだ低廉な価格で甲土地を買い受けた。

Xは、Yに対し、甲土地につき所有権に基づく所有権移転登記手続請求をした。この請求が認められるか論じなさい。

関連条文(クリックで表示)
  • 不動産に関する物権の得喪及び変更は、登記をしなければ、第三者に対抗することができない(177条)
  • 詐欺又は強迫によって登記の申請を妨げた第三者は、登記がないことを主張することができない(不動産登記法5条1項)
  • 他人のために登記を申請する義務を負う第三者は、登記がないことを主張することができない。ただし、その登記の登記原因が自己の登記の登記原因の後に生じたときは、この限りでない(不動産登記法5条2項)

1.原則論

【問題提起】

本件事実のとおり、Xは甲土地について登記を備えておらず、Yは所有権移転登記を経由している。そこで、XがYに対し、登記なくして所有権取得を対抗でき、所有権移転登記手続を請求できるかが問題となる。

【規範】

この点、不動産に関する物権の得喪及び変更は、登記をしなければ、第三者に対抗することができない(177条)。同一の不動産について両立しない物権を取得した二重譲渡の譲受人は、177条の第三者にあたり、先に登記を備えた者が優先する。

【あてはめ】

本件では、Yは、Xと両立しない甲土地の所有権を取得した者であり、177条の第三者に該当する。Xは未登記であり、Yは所有権移転登記を経由している。

【結論】

原則として、XはYに所有権取得を対抗できず、Xの請求は認められない。

2.論点・例外

【問題提起】

しかし、Yは、甲土地がXの買い受けたものであると熟知しながら、Xへの恨みから復讐する意図で、Aに強く要求して、時価1,500万円の甲土地を130万円で買い受けている。そこで、Yが、登記の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者にあたるかが問題となる。

【規範】

この点、177条の第三者は、登記の欠缺を主張する正当な利益を有する者に限られる。同条の趣旨は、登記を基準に物権変動の優劣を決することで、取引の安全を図るにある。自由競争の範囲内であれば、物権変動の事実を知っていた単なる悪意者も、第三者として保護される。かかる趣旨に照らせば、実体上の物権変動があった事実を知りながら、登記の欠缺を主張することが信義に反すると認められる事情がある者(背信的悪意者)は、登記の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者にあたらないと解する。不動産登記法5条1項・2項は、登記がないことを主張できない者の例として、詐欺又は強迫によって登記の申請を妨げた第三者と、他人のために登記を申請する義務を負う第三者を定めるが、背信的悪意者はこれらに限られない。

【あてはめ】

本件では、Yは、甲土地がXの買い受けたものであると十分熟知していた。Yは、他の土地をめぐるXとの争いからXに恨みを抱き、Xが登記を了していないのを奇貨として、Xに復讐する意図で甲土地の取得をたくらんでおり、その取得は、自由競争の範囲を超えてXを害することを目的とする。Aがいちおう拒絶したにもかかわらず、Yは「訴訟になっても自分が責任をもつ」と強く要求して売買契約を締結させ、時価1,500万円の甲土地を130万円というはなはだ低廉な価格で買い受けているという事情に照らせば、Yが登記の欠缺を主張することは信義に反する。Yは、不動産登記法5条1項・2項に直接あたる者ではないが、背信的悪意者にあたる。

【全体の結論】

したがって、Yは、登記の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者にあたらず、Xは、Yに対し、登記なくして甲土地の所有権取得を対抗できる。Xの請求は認められる。

なお、YA間の売買が公序良俗に反して無効となるか(90条)は、背信的悪意者であることで結論が導かれるため、検討していない。

(3) 善意の譲受人からの背信的悪意の転得者(パターン3)

問題文(クリックで表示)

本件事実および(2)の事実とは独立して、つぎの事実が判明している。

Aは、自分の財産を事実上子らに分与した際、令和3年2月1日、その子らの1人であるXに対し乙土地(時価1,500万円)を贈与した。ところが、その直後に、AとXを含むその子らとの間に紛争が生じたので、AとXとはBを仲裁人として示談解決に努めた結果、次のような和解が成立した。すなわち「乙土地に関してはその所有権がXに帰属していることを確認し、Aはすみやかに X名義に所有権移転登記をする」というのである。その際、和解条項と題する書面が作成され、Bはこれに立会人として他の関係人とともに署名捺印した。

しかし、令和3年4月1日、上記事実についてまったく知らず、かつ、知らないことにつき過失がないYに対し、Aは乙土地を1,000万円で売却し、その所有権移転登記を経由した。

その後すぐ、BがわざわざY方を訪れ、Yに対し乙土地の売却方を懇請したのを受けて、Yは、令和3年5月1日、Bに対し、乙土地を1,100万円で売却し、その所有権移転登記を経由した。

Xは、Bに対し、乙土地につき所有権に基づく所有権移転登記手続請求をした。この請求が認められるか論じなさい。

関連条文(クリックで表示)
  • 不動産に関する物権の得喪及び変更は、登記をしなければ、第三者に対抗することができない(177条)
  • 詐欺又は強迫によって登記の申請を妨げた第三者は、登記がないことを主張することができない(不動産登記法5条1項)
  • 他人のために登記を申請する義務を負う第三者は、登記がないことを主張することができない。ただし、その登記の登記原因が自己の登記の登記原因の後に生じたときは、この限りでない(不動産登記法5条2項)
【問題提起①】

乙土地は、Aから善意のYを経て、Bに譲渡され、Bが所有権移転登記を経由している。Xは、乙土地について登記を備えていない。そこで、まず、Bが、登記の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者にあたるかが問題となる。

【規範①】

この点、不動産に関する物権の得喪及び変更は、登記をしなければ、第三者に対抗することができない(177条)。第三者とは、登記の欠缺を主張する正当な利益を有する者をいい、実体上の物権変動があった事実を知りながら、登記の欠缺を主張することが信義に反すると認められる事情がある者(背信的悪意者)は、これにあたらない。不動産登記法5条1項・2項は、その例として、詐欺又は強迫によって登記の申請を妨げた第三者と、他人のために登記を申請する義務を負う第三者を定める。背信的悪意者にあたるかは、各人について個別に判断する。

【あてはめ①】

本件では、Bは、XとAの和解に立会人として署名捺印しており、乙土地の所有権がXに帰属し、AがXへの所有権移転登記をすべきことを知っていた。にもかかわらず、Bは、わざわざYを訪れて乙土地の売却を懇請し、買い受けて登記を経由している。Xへの登記が実現されるべきことを知りながら、これを覆す結果となる取得をしたという事情に照らせば、Bが登記の欠缺を主張することは信義に反する。Bは、不動産登記法5条2項の登記申請義務を負う者ではないが、背信的悪意者にあたる。

【小結論①】

よって、Bは、登記の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者にあたらない。

次に、Bが、善意無過失のYからの転得者であることが、結論に影響するかについて検討する。

【問題提起②】

Bは背信的悪意者であるが、Bが乙土地を買い受けたYは、Xの存在を知らず、知らないことに過失もなく、Aから乙土地を買い受けて登記を経由している。そこで、Xが、登記なくしてBに乙土地の所有権を対抗できるかが問題となる。

【規範②】

この点、不動産に関する物権の得喪及び変更は、登記をしなければ、第三者に対抗することができない(177条)。同条の趣旨は、登記を基準に物権変動の優劣を決し、取引の安全と法律関係の早期安定を図るにある。かかる趣旨に照らせば、登記の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者が、第一譲受人に先んじて登記を備えたときは、その第三者が確定的に所有権を取得し、第一譲受人は所有権を対抗できない。そして、その第三者から所有権を譲り受けた転得者は、自らが背信的悪意者であっても、有効に所有権を承継取得し、第一譲受人は、登記なくして転得者に対抗することはできないと解する。

【あてはめ②】

本件では、Yは、XとAの間の贈与及び和解を知らず、知らないことに過失もなく、背信的悪意者ではない。Yは、Aから乙土地を買い受けて、先に所有権移転登記を経由した、登記の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者である以上、乙土地の所有権を確定的に取得し、Xは、Yに所有権を対抗できない。Bは、確定的に所有権を取得したYから、売買により乙土地の所有権を承継取得し、登記を経由している。Bが背信的悪意者であっても、Yから承継取得した所有権の帰属には影響がなく、Xは、登記なくしてBに所有権を対抗できない。

【小結論②】

よって、Bが背信的悪意者であっても、Xは、登記なくしてBに乙土地の所有権を対抗できない。

【全体の結論】

以上より、Xの、Bに対する所有権移転登記手続請求は認められない。

なお、Xへの贈与の成立(549条)及び撤回(550条)は、書面による和解により所有権の帰属が確認されており、結論に影響しないため検討していない。

問題2 賃貸借の解除と賃料

(1) 賃料不払いと解除(パターン3)

問題文(クリックで表示)

Aは、店舗用建物(以下「甲建物」という。)を所有している。Bは、Aとの間で、飲食業を営むことを目的として、甲建物を賃料月100万円で賃借する旨の契約(以下「本件賃貸借契約」という。)を締結した。Bは甲建物の引渡しを受け、営業を開始した。

Bは、営業の不振からAへの賃料を6か月にわたり支払わなかった。最初の不払い以降、AはBに対して複数回にわたり支払いの催告を行ったが、いまだ賃料は支払われていない。

この場合において、Aは本件賃貸借契約を解除できるか、論じなさい。

関連条文(クリックで表示)
  • 賃借人は、賃料を支払う義務を負う(601条)
  • 当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない(541条)
  • 契約の解除は、相手方に対する意思表示によってする(540条1項)
【問題提起①】

Bは、6か月にわたり賃料を支払わず、Aは、複数回にわたり催告したが、賃料は支払われていない。そこで、Aが、541条本文により、解除権を取得したかが問題となる。

【規範①】

この点、賃借人は、賃料を支払う義務を負う(601条)。当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる(541条本文)。催告に期間の定めがなくても、催告から客観的に相当な期間が経過すれば、解除権が発生する。

【あてはめ①】

本件では、Bは、月100万円の賃料の支払義務を負い(601条)、6か月分、合計600万円の賃料を支払っていない。Aは、最初の不払い以降、複数回にわたり催告しており、6か月が経過してなお支払われていないという事情に照らせば、催告に期間の定めがあったか否かにかかわらず、催告から客観的に相当な期間が経過している。

【小結論①】

よって、Aは、541条本文により、解除権を取得した。

次に、541条ただし書の不履行の軽微性について検討する。

【問題提起②】

もっとも、賃貸借は、継続的な契約である。そこで、Bの不払いが、契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であり、解除が妨げられないかが問題となる。

【規範②】

この点、催告期間を経過した時における債務の不履行が、契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、解除をすることができない(541条ただし書)。賃貸借は、当事者間の信頼関係を基礎とする継続的契約であるから、賃料の不払いがあっても、信頼関係を破壊するに足りない特段の事情があるときは、解除は認められない。信頼関係を破壊するに至る不履行は、軽微とはいえない。

【あてはめ②】

本件では、Bの不払いは、6か月、合計600万円に及び、賃料の支払いという賃借人の中心的な義務の不履行である。Aが複数回にわたり催告したにもかかわらず、Bは支払っておらず、支払いの見込みを示す事情も見当たらない。不払いが長期かつ高額で、催告にも応じていないという事情に照らせば、信頼関係を破壊するに足りない特段の事情はなく、不履行は軽微とはいえない。

【小結論②】

よって、541条ただし書により、解除が妨げられることはない。

【全体の結論】

以上より、Aは、Bに対する解除の意思表示(540条1項)により、本件賃貸借契約を解除できる。

なお、すでに催告をしているため、催告によらない解除(542条)は検討していない。

(2) 賃貸人たる地位の移転と賃料の減額(パターン2)

問題文(クリックで表示)

Aは、店舗用建物(以下「甲建物」という。)を所有している。Bは、Aとの間で、飲食業を営むことを目的として、甲建物を賃料月100万円で賃借する旨の契約(以下「本件賃貸借契約」という。)を締結した。Bは甲建物の引渡しを受け、営業を開始した。

Aは、甲建物をCに売却し、Cへの所有権登記の移転も為された。Cへの売却後、甲建物の一部に雨漏りが生じたため、Bは、9月1日から30日までの1か月間、甲建物の2分の1を使用できなかった。雨漏り発生の原因は甲建物の欠陥によるものであった。

この場合において、CはBに対して9月分の賃料を請求することができるか、論じなさい。

関連条文(クリックで表示)
  • 賃貸借の対抗要件を備えた場合において、その不動産が譲渡されたときは、賃貸人たる地位は、その譲受人に移転する(605条の2第1項)
  • 賃貸人たる地位の移転は、賃貸物である不動産について所有権の移転の登記をしなければ、賃借人に対抗することができない(605条の2第3項)
  • 建物の賃貸借は、その登記がなくても、建物の引渡しがあったときは、その後その建物について物権を取得した者に対し、その効力を生ずる(借地借家法31条)
  • 賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される(611条1項)

1.原則論

【問題提起】

Aは、甲建物をCに売却し、Cへの所有権移転登記も経由された。そこで、CがBに対し、賃貸人として賃料(月100万円)を請求できるかが問題となる。

【規範】

この点、賃貸借の対抗要件を備えた場合において、その不動産が譲渡されたときは、賃貸人たる地位は、その譲受人に移転する(605条の2第1項)。建物の賃貸借は、その登記がなくても、建物の引渡しがあれば、その後その建物について物権を取得した者に対し、効力を生ずる(借地借家法31条)。賃貸人たる地位の移転は、所有権の移転の登記をしなければ、賃借人に対抗できない(605条の2第3項)。

【あてはめ】

本件では、Bは、甲建物の引渡しを受けており、借地借家法31条の対抗要件を備えている。また、賃貸人たる地位を譲渡人に留保する旨の合意(605条の2第2項)をしたとの事情もない。したがって、賃貸人たる地位は、甲建物を譲り受けたCに移転する(605条の2第1項)。Cは、所有権移転登記を経由しているから、Bに賃貸人たる地位の移転を対抗できる(同条3項)。Cは、Bに対し、月額100万円の賃料債権を有する。

【結論】

原則として、Cは、Bに対し、9月分の賃料100万円の全額を請求できる。

2.論点・例外

【問題提起】

しかし、雨漏りにより、Bは、9月1日から30日までの1か月間、甲建物の2分の1を使用できなかった。そこで、9月分の賃料が減額されないかが問題となる。

【規範】

この点、賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される(611条1項)。減額は、賃借人の請求を要せず、使用及び収益ができなくなった部分の割合に応じて当然に生じ、賃貸人の帰責事由も要しない。

【あてはめ】

本件では、雨漏りは甲建物の欠陥によるものであり、Bの責めに帰することができない事由による。9月の1か月間、甲建物の2分の1が使用及び収益をすることができなくなっているから、9月分の賃料は、その2分の1に応じて、請求を待たず当然に減額される(611条1項)。月額100万円の賃料は、50万円となる。

【全体の結論】

したがって、Cは、Bに対し、9月分の賃料として、減額後の50万円の限度で請求できる。残りの50万円は請求できない。

なお、残存する部分のみでは賃借の目的を達することができないとはいえず、Bの解除(611条2項)は問題とならないため、検討していない。

タイトルとURLをコピーしました