問題1 意思表示の瑕疵と第三者保護
(1) 動機の錯誤と取消し(パターン3)
- 法律行為の基礎とした事情についての認識が真実に反する錯誤で、法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものは、取り消すことができる(95条1項2号)
- 上記の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる(95条2項)
- 錯誤が表意者の重大な過失によるときは、取り消すことができない。例外として、相手方が表意者の錯誤を知り若しくは重大な過失により知らなかったとき、又は相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたときは、取り消すことができる(95条3項)
- 錯誤による取消しは、善意無過失の第三者に対抗することができない(95条4項)
- 錯誤による取消しができるのは、瑕疵ある意思表示をした者又はその代理人若しくは承継人に限る(120条2項)
- 取り消された行為は、初めから無効であったものとみなす(121条)
- 不動産に関する物権の得喪及び変更は、登記をしなければ第三者に対抗することができない(177条)
【問題提起①】
Aは、近隣にゴミ処分場ができるとの噂を信じて本件土地建物甲を売却したが、噂は誤りであった。そこで、Aが95条1項2号の錯誤(動機の錯誤)により売買契約を取り消せるかが問題となる。
【規範①】
この点、法律行為の基礎とした事情についての認識が真実に反し、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要であるときは、意思表示を取り消すことができる(95条1項2号)。もっとも、この取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限りすることができる(95条2項)。
【あてはめ①】
本件では、Aは、ゴミ処分場が建設されるとの認識を前提に売却を決意したが、この認識は真実に反していた。また、Aは噂をBに率直に話し、建設予定を踏まえて売買価額を3,800万円と合意しており、この事情が法律行為の基礎とされていることは表示されていた。さらに、時価約4,500万円に対し700万円近い減額がされているという事情に照らせば、この錯誤は取引上の社会通念に照らして重要である。
【小結論①】
よって、Aの意思表示は95条1項2号の錯誤にあたる。
次に、Aに重大な過失があり、取消しが制限されないかについて検討する。
【問題提起②】
Aは、市役所に電話で問い合わせれば噂の誤りを極めて容易に確認できた。そこで、95条3項により取消しが制限されないかが問題となる。
【規範②】
この点、錯誤が表意者の重大な過失によるときは、取り消すことができない(95条3項柱書)。もっとも、相手方が表意者の錯誤を知り又は重大な過失により知らなかったとき(同項1号)、及び相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき(同項2号)は、取り消すことができる。
【あてはめ②】
本件では、Aは容易に確認できたのに確認しておらず、重大な過失がある。しかし、BがAの錯誤を知っていたとの事情はなく、1号は認められない。他方、Bは、Aから噂を聞き、その建設予定を踏まえて価額を合意しており、Bも噂を真実と信じていたと評価できる。である以上、BはAと同一の錯誤に陥っていたといえ、同項2号により、Aは重大な過失があっても取り消すことができる。
【小結論②】
よって、95条3項による取消しの制限は及ばない。
次に、取消しの効果と所有権の帰属について検討する。
【問題提起③】
BはAから所有権移転登記を受けている。そこで、取消しにより所有権がAに復帰し、Aが登記なくして主張できるかが問題となる。
【規範③】
この点、取り消された行為は、初めから無効であったものとみなされる(121条)。不動産物権変動は、登記をしなければ第三者に対抗できない(177条)が、当事者間には適用されない。
【あてはめ③】
本件では、Aは表意者として取消権者である(120条2項)。取消しにより売買契約は初めから無効となり、所有権はBに移転しなかったことになる。BはAの契約の相手方であり、177条の第三者及び95条4項の第三者にあたらない。
【小結論③】
よって、Aは登記なくして、所有権が自己に帰属すると主張できる。
【全体の結論】
以上より、Aは錯誤を理由に売買契約を取り消し、本件土地建物甲の所有権は自分に帰属すると主張できる。もっとも、取消しの結果、Aは受領した代金をBに返還する義務を負う。
(2) 不実の登記と第三者保護(パターン2)
- 相手方と通じてした虚偽の意思表示は無効であり(94条1項)、この無効は善意の第三者に対抗できない(94条2項)
- 不動産に関する物権の得喪及び変更は、登記をしなければ第三者に対抗することができない(177条)
1.原則論
【問題提起】
Fは、Eの抵当権の実行による競売で買受人となり、代金を納付した。そこで、Fが所有権を取得するのか、真の所有者Cに所有権が帰属するのかが問題となる。
【規範】
この点、無権利者がした処分は効力を有しない。不動産の登記には公信力がなく、不実の登記を信頼しても権利を取得できない。無権利者から設定を受けた抵当権は成立せず、その実行による競売の買受人も所有権を取得しない。
【あてはめ】
本件では、DはCの実印を冒用して登記をCからDに移転したにすぎず、CD間に物権変動を生じさせる意思表示はない。Dは無権利者であり、CD間は177条の対抗関係にも立たない。したがって、DがEのために設定した抵当権は成立せず、競売によるFの取得も認められない。
【結論】
原則として、所有権はCに帰属する。
2.論点・例外
【問題提起】
しかし、Cは、不実の登記に気づきながら約3年間放置している。そこで、94条2項の類推適用により、Cは善意の第三者E・Fに対し無権利を主張できないのではないかが問題となる。
【規範】
この点、94条2項は、虚偽の外観を作出した者の帰責性に基づき、これを信頼した善意の第三者を保護する規定である。同条の趣旨は、権利外観を信頼した第三者の保護にある。かかる趣旨に照らせば、真の権利者が他人による不実の登記の存在を知りながらこれを明示又は黙示に承認し、放置していたときは、94条2項を類推適用でき、善意の第三者に対抗できないと解する。第三者は善意であれば足りる。
【あてはめ】
本件では、Cは、約1カ月後に不実の登記に気づきながら、費用や関係悪化を理由に回復せず約3年放置している。このという事情に照らせば、Cは不実の登記を黙示に承認したと評価でき、帰責性が認められる。Eは、Cが真の所有者であることを知らず、過失もないから、善意の第三者にあたる。FもEの抵当権の実行による買受人であり、事情を知らず善意である。よって、CはEの抵当権の無効を対抗できず、抵当権は有効であり、その実行による競売でFは所有権を取得する。
【全体の結論】
したがって、本件土地建物乙の所有権はFに帰属する。
なお、時効に関する規定は、事案に関係しないため検討していない。
問題2 贈与と賃貸借の解除
(1) 書面によらない贈与
① この請求はどのような根拠に基づくか(パターン1)
- 贈与は、当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾することによって効力を生ずる(549条)
【問題提起】
Bは、Aに対し、本件土地建物の所有権移転登記手続を請求している。そこで、この請求の根拠となる贈与契約が成立し、Bが履行を請求できるかが問題となる。
【規範】
この点、贈与は、当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾することによって効力を生ずる(549条)。方式は要求されず、口頭でも成立する。成立した贈与契約により、贈与者は目的財産の権利を移転する債務を負う。受贈者は、履行期の到来後、その履行として移転登記手続を請求できる。
【あてはめ】
本件では、Aは令和4年5月1日、本件土地建物をBに贈与すると口頭で約束し、Bは即座に「ありがとう。」と応えて受諾した。という事情に照らせば、549条の贈与契約が成立している。登記移転の履行期は令和5年5月1日と合意されており、令和6年5月1日の時点では既に到来している。
【結論】
したがって、Bの請求は、549条の贈与契約に基づく所有権移転登記請求権を根拠とするものである。
② Aはどのような根拠に基づき、どのような反論ができるか(パターン1)
- 書面によらない贈与は、各当事者が解除できる。例外として、履行の終わった部分は解除できない(550条)
- 解除は、相手方に対する意思表示によってする(540条1項)
- 権利の行使は信義に従い誠実に行わなければならず、権利の濫用は許されない(1条2項・3項)
【問題提起】
Aは、Bの請求に対し、贈与を解除して履行を拒むことを考える。そこで、本件の贈与が書面によらない贈与として550条により解除でき、履行の終わった部分にあたらないかが問題となる。
【規範】
この点、書面によらない贈与は、各当事者が解除できる。もっとも、履行の終わった部分は解除できない(550条)。解除は、相手方に対する意思表示によってする(540条1項)。同条の趣旨は、書面によらない贈与について、贈与者が軽率に贈与することを防ぎ、その意思を明確にする点にある。かかる趣旨に照らせば、目的物の引渡し又は所有権移転登記がされ、贈与の意思が明確になったときに、履行が終わったといえると解する。
【あてはめ】
本件では、贈与は口頭でされており、書面はない。また、鍵は渡されておらず、登記も移転されていないから、履行は終わっていない。履行期から1年が経過しているが、550条は履行が終わるまで解除を認めており、時間の経過のみでは解除権は失われない。さらに、Bが贈与を信頼して特別な出費や準備をしたとの事情は示されておらず、Aの解除が信義則に反し、権利の濫用(1条2項・3項)にあたるともいえない。
【結論】
よって、Aは、550条に基づき贈与を解除する旨の意思表示(540条1項)をすることで、Bの請求を拒むことができる。
(2) 賃貸借契約の催告解除(①パターン3・②パターン1)
- 当事者の一方が債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めて履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、契約を解除できる。例外として、期間経過時の不履行が契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、解除できない(541条)
- 解除は、相手方に対する意思表示によってし、この意思表示は撤回できない(540条)
- 意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる(97条1項)
- 権利の行使は信義に従い誠実に行わなければならず、権利の濫用は許されない(1条2項・3項)
① Aの解除の可否
【問題提起①】
Aは、541条の催告解除を主張する。そこで、Cの不履行を前提に、96万円の催告が有効かが問題となる。Cは、催告額のうち48万円は供託済みであり、過大な催告は無効と反論する。
【規範①】
この点、催告解除をするには、債務の不履行があり、相当の期間を定めて履行を催告し、その期間内に履行がないことを要する(541条本文)。もっとも、催告額が債務額を超えていても、延滞額の履行を求める趣旨を含み、債務者が延滞額を履行すれば足りることを認識できる限り、履行の機会を与えるという催告の趣旨は満たされる。そのため、催告は有効であると解する。ただし、過大の程度が著しく、債務者が催告に応じ得ない場合は別である。
【あてはめ①】
本件では、1月分から4月分の48万円は7月1日に供託されており、債務は消滅している。他方、5月分から8月分の48万円は、9月末時点で未履行である。Aの催告額96万円は、実際の延滞額の2倍で過大である。しかし、催告には延滞額が含まれ、Aは月額15万円の要求を取り下げて月額12万円で計算している。という事情に照らせば、Cは48万円を履行すれば足りることを認識でき、履行の機会は与えられていた。また、催告は9月22日に到達し、期限は同月末日までの約9日間であるが、金額は明らかで、Cは供託の経験もある。である以上、48万円の履行に足りる相当の期間といえる。Cは期間内に履行していない。
【小結論①】
よって、催告は有効であり、期間内の履行もない。
次に、不履行が軽微でないか、解除が信義則に反しないかについて検討する。
【問題提起②】
Cは、Aの増額要求と受領拒絶を背景に供託を続けてきた。そこで、不履行が軽微(541条ただし書)であり、又は解除が信義則に反するか問題となる。
【規範②】
この点、期間経過時の不履行が契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、解除できない(541条ただし書)。また、権利の行使は信義に従い誠実に行わなければならず、権利の濫用は許されない(1条2項・3項)。
【あてはめ②】
本件では、不履行は5月分から8月分の4か月分48万円であり、賃料は賃借人の主たる債務である。しかも、Cは催告後も履行せず、解除の意思表示の後(11月1日)に供託している。もっとも、Cは従前、受領拒絶を受けて適法に供託してきた。しかし、Aは増額要求を取り下げ、従前の月額12万円の賃料のみを求めており、Cは供託をすれば足りた。という事情に照らせば、不履行は軽微とはいえず、Aの解除が信義則に反し、権利の濫用にあたるともいえない。
【全体の結論】
したがって、Aは本件賃貸借契約を解除することができる。
② 解除の時点
【問題提起】
Aの解除の意思表示がいつ効力を生じ、契約がいつ解除されたかが問題となる。
【規範】
この点、契約の解除は、相手方に対する意思表示によってする(540条1項)。意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる(97条1項)。解除の意思表示は撤回できない(540条2項)。
【あてはめ】
本件では、Aの解除の書面は令和16年10月1日付であるが、同月2日にCに到達した。Cが同年11月1日に5月分から8月分を供託したのは、解除の効力発生後である。
【結論】
よって、契約は、解除の意思表示が到達した令和16年10月2日に解除された。
なお、時効に関する規定は、事案に関係しないため検討していない。

1992年生まれ。3人目の育休中。
初めて不動産投資をするときにつまづくことが多く、当時知りたかったことをまとめています。最近は不動産鑑定士の勉強についての記事ばかりです。ドメイン分ければ良かったか・・・。

