【令和8年不動産鑑定士試験】民法 解答

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令和8年度 不動産鑑定士試験 論文式 民法

黄色のマーカーは、判例・学説で固まっている解釈の言い回し。答案でそのまま書けるように覚える。

答案の型(クリックで表示)
パターン1(要件充足型)
条文の要件に事実を当てはめれば結論が出る。対立する原則はない。
【問題提起】→【規範】→【あてはめ】→【結論】の1段構成。
パターン2(原則・例外型)
一般原則を適用すると通常の結論になるが、特殊事情によってその結論が覆る、又は制限される。
「1.原則論」【問題提起】【規範】【あてはめ】【結論】
「2.論点・例外」【問題提起】(しかし〜が問題となる)【規範】【あてはめ】【全体の結論】
論点の規範は法規範の要約でよい。趣旨からの理由付けが必要な解釈規範の場合のみ趣旨を書く。
パターン3(論点先行・積み上げ型)
対立する原則はないが、複数の論点を順番にクリアしないと結論に届かない。
【問題提起①】【規範①】【あてはめ①】【小結論①】を「次に、〜について検討する。」で繋ぎ、②③…と続け、最後に【全体の結論】。

問題1 制限行為能力と虚偽表示

(1) 被保佐人の売買と詐術(パターン2)

問題文(クリックで表示)

Aは、甲土地を所有していた。Aは、家庭裁判所でB(Aの妻)を保佐人とする保佐開始の審判を受けた後に、Bの同意を得ることなく、甲土地を1,000万円でCに売り渡す契約を締結した。この契約を締結する際、Cは、Aに対して、「Bが甲土地で家庭菜園をしているようだが、Bの了解を得なくて良いのか。」と尋ねた。Aは、「自分の物を売るのに、なぜ妻に遠慮がいるのか。」と答えたので、Cはそれ以上詮索しなかった。この場合、保佐人Bは、Cに対して、被保佐人Aの行為の取り消しを主張できるか。根拠を示した上で、論じなさい。

関連条文(クリックで表示)
  • 被保佐人が不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をするには、保佐人の同意を得なければならない(13条1項3号)
  • 保佐人の同意を得なければならない行為であって、その同意又はこれに代わる許可を得ないでしたものは、取り消すことができる(13条4項)
  • 行為能力の制限によって取り消すことができる行為は、制限行為能力者又はその代理人、承継人若しくは同意をすることができる者に限り、取り消すことができる(120条1項)
  • 制限行為能力者が行為能力者であることを信じさせるため詐術を用いたときは、その行為を取り消すことができない(21条)

1.原則論

【問題提起】

Aは、保佐開始の審判を受けた被保佐人であるが、保佐人Bの同意を得ることなく、甲土地を1,000万円でCに売却した。そこで、保佐人BがAの行為の取消しを主張できるかが問題となる。

【規範】

この点、被保佐人が不動産に関する権利の得喪を目的とする行為をするには、保佐人の同意を要する(13条1項3号)。保佐人の同意又はこれに代わる許可を得ないでした行為は、取り消すことができる(同条4項)。取消しができるのは、制限行為能力者のほか、同意をすることができる者に限られる(120条1項)。

【あてはめ】

本件では、Aは家庭裁判所で保佐開始の審判を受けた被保佐人であり、甲土地の売却は不動産に関する権利の得喪を目的とする行為にあたる(13条1項3号)。Aは保佐人Bの同意を得ておらず、同意に代わる許可を得たとの事情もない。保佐人Bは、同意をすることができる者として取消権者である(120条1項)。

【結論】

原則として、Bは、Aの行為を取り消すことができる。

2.論点・例外

【問題提起】

しかし、Aは、Cから「Bの了解を得なくて良いのか」と尋ねられ、「自分の物を売るのに、なぜ妻に遠慮がいるのか」と答えている。そこで、このAの言動が21条の詐術にあたり、取消しが制限されないかが問題となる。

【規範】

この点、制限行為能力者が行為能力者であることを信じさせるため詐術を用いたときは、その行為を取り消すことができない(21条)。同条の趣旨は、行為能力者であると信じた相手方の保護にある。もっとも、同条は制限行為能力者保護の例外であるから、広く適用すべきではない。かかる趣旨に照らせば、詐術にあたるのは、能力者であると相手方に誤信させる積極的な術策を用いた場合であり、単に制限行為能力者であることを黙秘していたにとどまるときは詐術にあたらないと解する。ただし、黙秘も、他の言動と相まって相手方を誤信させ、又は誤信を強めたと評価できるときは、詐術にあたる。

【あてはめ】

本件では、Aは、Cの質問に対して「自分の物を売るのに、なぜ妻に遠慮がいるのか」と答えたにとどまり、保佐開始の審判を受けていないとか、保佐人の同意は不要であるなどと述べてはいない。Aの返答は、保佐の事実を積極的に偽ったものではなく、黙秘に近い。Cがそれ以上詮索しなかったにすぎず、Aが保佐の事実を偽る術策を用いたわけでもないという事情に照らせば、他の言動と相まって誤信を生じさせ、又は強めたとも評価できず、Aの言動は詐術にあたらない。

【全体の結論】

したがって、保佐人Bは、Cに対し、被保佐人Aの行為の取消しを主張することができる。

(2) 虚偽表示と転得者の保護

問題文・共通の事実(クリックで表示)

Dは、Eとの間で、Dの所有する乙土地をEに売り渡す契約を締結し、Eに乙土地を引き渡し、登記もEに移転した。もっとも、この売買契約は虚偽表示によるものであり、実際にはDもEも契約をする意思がなかったにもかかわらず、Dがその債権者からの差押えを免れるために、Eと示し合わせて行われたものであった。Eは、この状況を悪用して、乙土地をFに売却し、Fに乙土地を引き渡し、登記もFに移転した。更に、Fは、乙土地をGに転売し、Gに乙土地を引き渡し、登記もGに移転した。

以上を前提に、次の①と②のそれぞれについて答えなさい。

① Fが悪意・Gが善意の場合(パターン2)

問題文(クリックで表示)

DとEの間の売買契約が虚偽表示によるものであることを、Fは知っていたが、Gは知らなかった。Dは、Gに対して、乙土地の売買契約の意思表示が無効であると主張して、乙土地の返還を求めている。この場合、Dの主張は認められるか。根拠を示した上で、論じなさい。

関連条文(クリックで表示)
  • 相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効である(94条1項)
  • 虚偽表示による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない(94条2項)

1.原則論

【問題提起】

DとEの売買契約は虚偽表示であり、乙土地はE、F、Gの順に転売され、Gに登記が移転している。そこで、Dが、虚偽表示による無効を主張して、Gに乙土地の返還を求められるかが問題となる。

【規範】

この点、相手方と通じてした虚偽の意思表示は無効である(94条1項)。売買が無効であれば、所有権は買主に移転せず、買主は無権利者となる。その無権利者から譲り受けた者も、原則として権利を取得しない。

【あてはめ】

本件では、DとEは、Dの債権者からの差押えを免れるため、契約をする意思がないのに通じて売買契約を締結しており、この契約は虚偽表示にあたる。よって、売買契約は無効であり、乙土地の所有権はEに移転せず、Eは無権利者である。Eから譲り受けたF、さらにFから転得したGも、原則として所有権を取得しない。

【結論】

原則として、Dの主張は認められ、DはGに乙土地の返還を求められる。

2.論点・例外

【問題提起】

しかし、Fは虚偽表示を知っていた(悪意)が、Gは知らなかった(善意)。そこで、悪意のFからの転得者Gが、94条2項の善意の第三者にあたり、Dが無効を対抗できないかが問題となる。

【規範】

この点、虚偽表示の無効は、善意の第三者に対抗できない(94条2項)。第三者とは、当事者及びその包括承継人以外で、虚偽表示の目的につき新たに独立した法律上の利害関係を有するに至った者をいい、転得者も含まれる。同条の趣旨は、虚偽の外観を作出した者の帰責性に基づき、これを信頼した者を保護する点にある。かかる趣旨に照らせば、悪意の第三者から譲り受けた転得者であっても、自らが善意であれば、善意の第三者として保護されると解する。第三者は、善意であれば足り、無過失や登記は要しない。

【あてはめ】

本件では、GはFから乙土地を買い受け、引渡しと登記を受けており、虚偽表示の目的につき新たに独立した法律上の利害関係を有するに至った第三者にあたる。Gは虚偽表示を知らず善意である以上、Fが悪意であっても、善意の第三者として保護される。

【全体の結論】

したがって、DはGに対して無効を対抗できず、Dの主張は認められない。

② Fが善意・Gが悪意の場合(パターン2)

問題文(クリックで表示)

DとEの間の売買契約が虚偽表示によるものであることを、Fは知らなかったが、Gは知っていた。Dは、Gに対して、乙土地の売買契約の意思表示が無効であると主張して、乙土地の返還を求めている。この場合、Dの主張は認められるか。根拠を示した上で、論じなさい。

関連条文(クリックで表示)
  • 相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効である(94条1項)
  • 虚偽表示による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない(94条2項)

1.原則論

【問題提起】

DとEの売買契約は虚偽表示であり、乙土地はE、F、Gの順に転売され、Gに登記が移転している。そこで、Dが、虚偽表示による無効を主張して、Gに乙土地の返還を求められるかが問題となる。

【規範】

この点、相手方と通じてした虚偽の意思表示は無効である(94条1項)。売買が無効であれば、所有権は買主に移転せず、買主は無権利者となる。その無権利者から譲り受けた者も、原則として権利を取得しない。

【あてはめ】

本件では、DとEは、差押えを免れるため、契約をする意思がないのに通じて売買契約を締結しており、この契約は虚偽表示にあたる。よって、売買契約は無効であり、Eは無権利者である。Eから譲り受けたF、さらにFから転得したGも、原則として所有権を取得しない。

【結論】

原則として、Dの主張は認められ、DはGに乙土地の返還を求められる。

2.論点・例外

【問題提起】

しかし、Fは虚偽表示を知らず(善意)、Gは知っていた(悪意)。そこで、善意の第三者Fからの転得者である悪意のGに対し、Dが無効を対抗できるかが問題となる。

【規範】

この点、虚偽表示の無効は、善意の第三者に対抗できない(94条2項)。同条の趣旨は、虚偽の外観を作出した者の帰責性に基づき、これを信頼した善意の第三者を保護して取引の安全を図る点にある。かかる趣旨に照らせば、善意の第三者が確定的に権利を取得した以上、その者から譲り受けた転得者は、悪意であっても、その権利を承継取得し、無効を対抗されないと解する。そうしないと、善意の第三者の処分が妨げられ、その保護が全うされないからである。

【あてはめ】

本件では、Fは虚偽表示を知らない善意の第三者であり、Dは無効をFに対抗できない。Fは、乙土地の所有権を確定的に取得している。GはそのFから乙土地を買い受けたのであり、Gが悪意であっても、Fが取得した所有権を承継取得する。

【全体の結論】

したがって、DはGに対して無効を対抗できず、Dの主張は認められない。

なお、時効に関する規定は、事案に関係しないため検討していない。

問題2 賃借物の無断転貸と請負建物の所有権

(1) 賃借権の無断転貸

問題文・共通の事実(クリックで表示)

Aは自宅付近に甲建物を所有しており、甲建物の所有権登記はA名義である。甲建物は住宅であるが居住者はいない。令和7年5月初旬、Aは、友人Bから甲建物を賃借したい旨の申出を受けた。同年5月20日、Aは、Bに甲建物を期間3年、月額賃料14万円で賃貸する旨の契約(以下、「本件原賃貸借契約」という。)を締結した。同年6月1日にBは甲建物に入居した。

約3か月後、Bは、勤務先であるD社の突発的な事情により2年間、遠方にある事業所に急遽転勤することになり、転居せざるを得なくなった。BがD社の同僚Cに転勤を伝えたところ、Cから、Bの転勤期間中、甲建物を賃借したい旨の申出を受けた。令和7年9月11日、Bは、Aに断ることなく、Cに甲建物を期間2年、月額賃料14万円で賃貸する旨の契約を締結した。同年9月15日にCは甲建物に入居した。同年12月15日、Aが甲建物を訪れたところ、甲建物にはCが居住しており、BがAに断りなくCに甲建物を賃貸していたことが判明した。

以上の事実を前提として、次の①及び②のそれぞれについて答えなさい。なお、各設問は独立した別個の問である。

① 本件原賃貸借契約の解除(パターン2)

問題文(クリックで表示)

AはBとの本件原賃貸借契約を解除することができるか、論じなさい。

関連条文(クリックで表示)
  • 賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない(612条1項)
  • 賃借人が前項に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができる(612条2項)

1.原則論

【問題提起】

Bは、Aに断りなく、Cに甲建物を賃貸し、Cを入居させている。そこで、Aが612条2項により本件原賃貸借契約を解除できるかが問題となる。

【規範】

この点、賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、賃借物を転貸できない(612条1項)。賃借人が違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は契約を解除できる(同条2項)。同項は、解除の要件として催告を定めていない。

【あてはめ】

本件では、Bは、令和7年9月11日、Aの承諾を得ることなく、Cと甲建物を期間2年で賃貸する契約を締結し、同月15日にCを入居させた。Bが第三者Cに賃借物の使用をさせたことは、612条2項の場合にあたる。

【結論】

原則として、Aは本件原賃貸借契約を解除することができる。

2.論点・例外

【問題提起】

しかし、Bの転貸は、D社の突発的な事情による転勤のためであり、転貸先は同僚Cで、賃料も同額である。そこで、背信的行為と認めるに足りない特段の事情があるとして、解除が制限されないかが問題となる。

【規範】

この点、賃貸借は、当事者間の信頼関係を基礎とする継続的契約である。612条の趣旨は、賃貸人が賃借人の選択に利害を有し、賃借物を誰が使用するかが賃貸人の関心事である点にある。かかる趣旨に照らせば、賃借人が賃貸人の承諾なく転貸しても、賃貸人に対する背信的行為と認めるに足りない特段の事情があるときは、賃貸人は解除できないと解する。特段の事情は、転貸に至った経緯と目的、転借人の属性、賃料や使用の態様、賃貸人の不利益の有無を総合して判断し、賃借人が主張立証する。

【あてはめ】

本件では、Bの転貸は、D社の突発的な事情により2年間の転勤を余儀なくされたことによるもので、自己の利益を図る目的ではない。転貸期間は転勤期間と同じ2年であり、転借人Cは同僚で身元も明らかである。転貸賃料は原賃貸借と同額の月額14万円で、Bは転貸により利益を得ていない。甲建物は住宅として使用されており、使用の態様も変わらない。もっとも、Bは約3か月にわたりAに連絡する機会があったのに連絡していない。しかし、以上の経緯から、Aの信頼を裏切る事情やAに生じた不利益は見当たらないという事情に照らせば、背信的行為と認めるに足りない特段の事情があるといえる。

【全体の結論】

したがって、Aは、Bとの本件原賃貸借契約を解除することはできない。

② Cに対する甲建物の明渡請求(パターン2)

問題文(クリックで表示)

①についてAはBとの本件原賃貸借契約を解除することが可能であると仮定する。このときAはCに対して甲建物の明渡しを請求することができるか、AとCとの法律関係を踏まえて、論じなさい。

関連条文(クリックで表示)
  • 賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、賃借物を転貸することができない(612条1項)。違反して第三者に使用又は収益をさせたときは、賃貸人は契約を解除できる(612条2項)
  • 債務の全部の履行が不能であるときは、債権者は、催告なく直ちに契約を解除できる(542条1項1号)
  • 他人の権利を売買の目的としたときは、売主は、その権利を取得して買主に移転する義務を負う(561条)

1.原則論

【問題提起】

Aは、甲建物の所有者として、これを占有するCに明渡しを求めたい。そこで、AがCに明渡しを請求できるかが問題となる。

【規範】

この点、所有者は、占有する者に対し、所有権に基づく返還請求権として明渡しを請求できる。もっとも、占有者が占有を正当化する権原を有するときは、請求できない。

【あてはめ】

本件では、甲建物の所有権登記はA名義であり、Aが所有者である。Cが甲建物に入居して占有している。AとCの間には、直接の契約関係はない。

【結論】

原則として、Cに占有権原がなければ、Aは明渡しを請求できる。

2.論点・例外

【問題提起】

しかし、Cは、Bとの転貸借契約を占有権原として主張するおそれがある。そこで、転貸借がAに対する占有権原となるか、①の仮定どおりAが原賃貸借契約を解除した場合にCの占有権原が失われるかが問題となる。

【規範】

この点、転貸借契約は、他人の権利である賃借権を目的とするものであり、他人の権利の売買に準じ(561条参照)、賃借人と転借人の間では有効である。もっとも、賃貸人の承諾のない転貸借は、賃貸人に対抗できない(612条1項)。賃貸人が同条2項により原賃貸借を解除すると、賃借人は使用収益権原を失い、転貸人の使用収益させる債務は全部履行不能となる(542条1項1号参照)。そうだとすれば、賃貸人は、転借人に対し、転貸借を理由とする占有権原の主張を受けることなく、明渡しを請求できると解する。

【あてはめ】

本件では、AはBC間の転貸借を承諾しておらず、BC間の転貸借は、Bとの関係では有効でも、Aに対抗できない。①の仮定のとおりAが本件原賃貸借契約を解除すれば、Bは甲建物の使用収益権原を失い、Cの転借権の基礎も失われる。AとCの間には直接の契約関係がないから、Cは、BC間の転貸借を理由にAの請求を拒めない。Cは、Bに対し、転貸借上の使用収益させる義務の不履行を追及できるにとどまる。

【全体の結論】

したがって、Aは、Cに対し、甲建物の明渡しを請求することができる。

(2) 請負建物の所有権の帰属(パターン2)

問題文(クリックで表示)

Eは建設業を営んでいる。EはFから、Fの所有する乙土地に丙建物を建築する旨の注文を受けた。令和8年3月5日、Eは、丙建物の建築を請負う旨の契約(以下、「本件請負契約」という。)をFと締結した。本件請負契約の契約書では、以下のアからウの事項が定められたが、これら以外の事項は定められていない。

ア Eが材料を提供して丙建物を令和8年6月末までに完成させる。

イ Eは丙建物を令和8年8月1日にFに引渡す。

ウ 報酬は2,800万円とし、丙建物の引渡時にFがEに支払う。

Eは材料を提供して丙建物を令和8年6月末に完成させた。同年7月1日、EはFに、丙建物が完成し、同年8月1日に丙建物を引渡す旨を伝えた。ところが同年7月10日、FはEに、同年8月1日に報酬を支払うことができない旨を告げた上で、報酬2,800万円の支払いは同年9月30日まで延期するが、丙建物の引渡しは同年8月1日に行いたい旨、求めた。しかし同年7月11日、EはFに、報酬の支払いがない限り丙建物の引渡しは行わない旨を伝えた。このとき丙建物の所有権はE又はFのどちらに帰属しているか、論じなさい。

関連条文(クリックで表示)
  • 請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる(632条)
  • 報酬は、仕事の目的物の引渡しと同時に支払わなければならない(633条本文)
  • 双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる(533条本文)

1.原則論

【問題提起】

Eは、材料を提供して丙建物を完成させたが、まだFに引き渡していない。そこで、丙建物の所有権がEとFのどちらに帰属するかが問題となる。

【規範】

この点、請負人が材料の全部又は主要部分を提供して建物を完成させたときは、建物の所有権は、原則として請負人に帰属する。注文者への所有権の移転は、引渡しによって生ずる。

【あてはめ】

本件では、Eは、材料を提供して丙建物を令和8年6月末に完成させている。丙建物は、まだFに引き渡されていない。契約書にも、所有権の帰属に関する定めはない。

【結論】

原則として、丙建物の所有権は、Eに帰属する。

2.論点・例外

【問題提起】

しかし、Fは注文者であり、報酬の支払いを延期するよう求めている。そこで、当事者の特約又は引渡し前の合意により、丙建物の所有権がFに帰属しないかが問題となる。

【規範】

この点、報酬は、仕事の目的物の引渡しと同時に支払う(633条本文)。引渡しと報酬の支払いは同時履行の関係に立ち、相手方が履行を提供するまで、自己の債務の履行を拒める(533条本文)。もっとも、当事者が、完成と同時に注文者に所有権を帰属させる旨を、明示又は黙示に合意したときは、注文者に帰属する。注文者が報酬の全部又は大部分を完成前に支払っているなどの事情があれば、黙示の特約が認められると解する。

【あてはめ】

本件では、報酬2,800万円は、丙建物の引渡時に支払うとされ(ウ)、Fは完成前に報酬を支払っていない。所有権の帰属を定める特約は、契約書にない。Fは令和8年7月10日に、報酬の支払いを9月30日まで延期し、引渡しは8月1日に行うよう求めた。しかし、Eは同月11日に、報酬の支払いがない限り引渡しをしない旨を伝えており、Fの提案を承諾していない。Eは、同時履行の抗弁(533条本文)により、報酬の支払いがあるまで引渡しを拒めるという事情に照らせば、引渡し前にFへ所有権を移転する合意は認められない。

【全体の結論】

したがって、丙建物の所有権は、Eに帰属している。

なお、時効に関する規定は、事案に関係しないため検討していない。

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