【会計学】令和元年度 不動産鑑定士試験 論文式 過去問と模範解答
問題1:資産の評価/問題2:固定資産の減損
問題文の空欄(ア)などをクリックすると解答が出る。同じ記号は連動して切り替わる。
問題1資産の評価とは?4つの評価方法と、取得原価・時価の使い分けを整理
資産の評価について、次の各問に答えなさい。
(1) 空欄ア〜キの語句
次の文章は、資産の評価方法について説明したものである。次の空欄(ア)から(キ)までに入る適切な語句を答えなさい。
資産の評価方法には、大きく4つのものがある。第1に、企業がその資産を購入によって取得した場合、その購入代金にを加算して算定されるをもって行う方法である。購入したのが過去の時点であることを強調する意味でと呼ばれることもある。第2に、現在保有している資産と同等のものを再び購入して、取得する際にかかる価格をもって算定されるがある。第3の方法は、現在保有している資産を売却した場合、その売却価格からを控除した額をもって算定されるである。第4に、その資産がもたらす将来のを見積もり、それを利子率で割り引いてを算定する方法である。
(2) 資産の2区分と、取得原価・時価の使い分け
わが国の会計基準では、保有目的の違いにより、資産を大きく2つの種類に分類し、それぞれ取得原価及び時価で評価することになっている。この資産の2つの区分を示し、なぜ取得原価が適用されるのか、あるいは時価が適用されるのかについて述べなさい。
※解答用紙は25行の指定。1行30〜35字程度と見ると、25行は750〜875字ほどになる。本文は約600字で収まる(設例の表は字数に含めない補足)。
【会計基準に準拠した解答】
①資産の2区分
資産は、保有目的の違いにより、事業用資産と金融資産に区分される。事業用資産は、棚卸資産や有形固定資産のように、事業の遂行のために保有する資産(事業投資)である。金融資産は、売買目的有価証券のように、時価の変動により利益を得ることを目的として保有する資産(金融投資)である。事業用資産は取得原価で、金融資産は時価で評価する。
②事業用資産に取得原価を適用する理由
事業用資産は、売却を予定せず、使用や販売を通じて投資を回収する。その成果は、時価の変動ではなく、事業活動の結果として得られる収益によって確定する。そのため、事業用資産の時価の変動は投資の成果ではなく、未実現の利益にすぎない。未実現利益を計上すれば、利益の処分可能性が損なわれる。他方、取得原価は、実際の支出額に基づく客観的で検証可能な金額である。そこで、取得原価を基礎として計上し、実現した収益に対応させて費用配分する。
③金融資産に時価を適用する理由
金融資産は、時価の変動そのものが投資の成果である。市場で容易に売却・換金できるため、時価の変動を成果として認識しても、その成果は実現可能なものといえ、投資のリスクから解放されている。また、時価は市場価格により客観的に入手できる。さらに、投資家にとって有用な情報は、期末時点の時価とその変動である。そこで、時価で評価し、評価差額は当期の損益とする。
(設例)同じ設備を、4つの方法で評価する。購入代価1,000、引取費用・据付費50、現在の再調達価格1,200、売却価格900、売却に要する費用30、将来のCFは毎期400×3年、利子率5%(単位:万円)
| 評価方法 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 取得原価(歴史的原価) | 購入代価1,000+付随費用50 | 1,050 |
| 再調達原価 | 現在、同等のものを購入する価格 | 1,200 |
| 正味売却価額 | 売却価格900−付随費用30 | 870 |
| 現在価値(割引現在価値) | 400÷1.05+400÷1.05²+400÷1.05³=380.95+362.81+345.54 | 約1,089 |
(設例)取得原価1,000の土地と株式。期末の時価はいずれも1,300(単位:万円)
| 項目 | 事業用資産(土地) | 金融資産(売買目的有価証券) |
|---|---|---|
| 期末の貸借対照表価額 | 1,000(取得原価) | 1,300(時価) |
| 評価差額 | 計上しない | +300 |
| 当期の損益 | 0(売却して収益が実現したときに計上) | +300(評価益) |
根拠:企業会計原則 第三 五、企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」第15項(結論の背景を含む)、討議資料「財務会計の概念フレームワーク」(投資のリスクからの解放に関する記述を含む)
【やわらかい解答】
資産の2つの区分
資産は、持っている目的で2つに分けて考える。1つは、事業のために使う資産(事業用資産)で、工場の機械、土地、売るための商品などだ。もう1つは、値上がりによる儲けを狙って持つ資産(金融資産)で、売買目的の株式などだ。
事業用資産は、買った値段(取得原価)で評価する
たとえば、パン屋のオーブンは、転売するためではなく、パンを焼いて稼ぐために持っている。中古市場でオーブンの値段が上がっても、それでパン屋が儲かったわけではない。儲けが出るのは、パンを売ったときだ。まだ売っていないオーブンの値上がり分を利益にしてしまうと、手元にないお金を利益として扱い、配当などに回しかねない。そこで、実際に払った金額のまま評価する。
金融資産は、時価で評価する
値上がり益を狙って株を持つ会社にとっては、株価が動くこと自体が成果だ。市場でいつでも売れて、値段もすぐ分かる。値上がりしたなら、売っても売らなくても、儲かったと考えるのが実態に合う。そこで、時価で評価して、差額は損益にする。
たとえば、1,000万円で買った土地と株が、どちらも1,300万円に値上がりしたとする。株は300万円の評価益を計上するが、土地は1,000万円のままで、利益は出さない。
問題2固定資産の減損とは?「投資額の回収不能」を損失にする仕組みと、基準の問題点
固定資産の減損に関する会計処理について、次の各問に答えなさい。
(1) 空欄ア〜オの語句
次の文章は、「固定資産の減損に係る会計基準」からの抜粋である。文中の空欄(ア)から(オ)までに入る適切な語句を答えなさい。
2.減損損失の認識
(1) 減損の兆候がある資産又は資産グループについての減損損失を認識するかどうかの判定は、資産又は資産グループから得られるの総額とを比較することによって行い、資産又は資産グループから得られるの総額がを下回る場合には、減損損失を認識する。
(中略)
6.資産のグルーピング
(1) 資産のグルーピングの方法
減損損失を認識するかどうかの判定と減損損失の測定において行われる資産のグルーピングは、他の資産又は資産グループのから概ねしたを生み出すの単位で行う。
(2) 資産グループについて認識された減損損失の配分
資産グループについて認識された減損損失は、に基づく比例配分等の合理的な方法により、当該資産グループの各構成資産に配分する。
(2) 減損の定義
次の文章に関連して、以下の各問に答えなさい。
「固定資産の減損に係る会計基準の設定に関する意見書」によれば、「固定資産の減損とは、資産の収益性の低下により状態」(三,3)であるとされる。
(2)① 空欄に入る文言
空欄に入る適切な文言を答えなさい。
(2)② 収益性が低下した状態の意味
下線部について、資産の収益性が低下した状態とは、どのようなものか。その意味を、投資という観点から説明しなさい。
【会計基準に準拠した解答】
固定資産への投資は、その資産を事業に使って得られるキャッシュ・フロー(使用による収入と、処分による収入)によって回収される。帳簿価額(取得原価の未償却残高)は、将来の回収を予定している投資額のうち、まだ回収されていない部分を表す。
資産の収益性が低下した状態とは、投資の成果である将来のキャッシュ・フローが減少し、その帳簿価額を回収するだけの額が見込めなくなることである。つまり、投資額の回収可能性が失われ、帳簿価額が過大になった状態を指す。
根拠:「固定資産の減損に係る会計基準の設定に関する意見書」三 3(問題文の表記による。結論の背景を含む)
【やわらかい解答】
固定資産を買うのは、お金を「投資」しているということだ。投資したお金は、その資産を使って稼いだお金で、少しずつ取り戻していく。
たとえば、1,000万円かけてお店を作り、今の帳簿には800万円が残っているとする。ところが、客が減って、これから先の利益を全部足しても、あと600万円しか戻ってこない見込みになったとしよう。このとき、帳簿に800万円の資産として載せたままだと、戻ってこない200万円が資産に入っていることになる。
このように、「投資したお金を、稼ぎで取り戻せなくなった」状態が、収益性が低下した状態だ。
(3) 減損処理が時価評価ではない理由
固定資産の減損処理は、時価評価ではないとされる。その理由を答えなさい。
【会計基準に準拠した解答】
減損処理は、投資額の回収が見込めなくなった場合に、その回収可能性を反映させるように帳簿価額を減額する会計処理であり、取得原価基準の枠内で行われる臨時的な簿価の切下げである。時価評価は、資産の時価の変動そのものを測定して、損益に反映させるものであり、両者は異なる。その理由は、次のとおりである。
- 固定資産は、売却を予定せず、使用を通じて投資額を回収する。そのため、時価の変動は投資の成果ではなく、回収可能性とも直接には結びつかない。
- 減損処理は、回収可能性の低下に着目する。そのため、時価が下落しても、将来のキャッシュ・フローによって帳簿価額を回収できるなら、減損損失は認識しない。
- 減損処理は、帳簿価額の切下げのみを行う。時価が上昇しても評価益は計上せず、切り下げた後に回復しても、戻入れは行わない。
(設例)帳簿価額800の設備。判定は、割引前の将来CFの総額と帳簿価額の比較による。回収可能価額は、使用価値と正味売却価額のいずれか高い額(単位:万円)
| 項目 | ケース1 時価の下落 | ケース2 回収不能 | ケース3 時価の上昇 |
|---|---|---|---|
| 時価(正味売却価額) | 600 | 500 | 1,100 |
| 将来CFの総額(割引前) | 900 | 700 | 900 |
| 使用価値(割引後) | — | 550 | — |
| 時価評価した場合の損益 | −200 | −300 | +300 |
| 減損処理の判定 | 900≧800 認識しない | 700<800 認識する | 900≧800 認識しない |
| 減損処理した場合の損益 | 0 | −250 (800−550) | 0 |
根拠:「固定資産の減損に係る会計基準の設定に関する意見書」三(基本的考え方、結論の背景を含む)
【やわらかい解答】
減損は、「今の値段がいくらか」を計る手続ではなく、「投資したお金を取り戻せるか」を確かめる手続だからだ。
たとえば、帳簿に800万円で載せている設備の値段が、中古市場で600万円に下がったとする。でも、その設備を使い続ければ、あと900万円稼げる見込みなら、投資したお金は取り戻せる。だから、損失は出さない。
反対に、中古市場で1,100万円に値上がりしても、売るつもりはないので、利益は出さない。値上がり・値下がりをそのまま帳簿に反映する時価評価とは、ここが違う。減損処理は、取り戻せないとはっきりしたときだけ、帳簿の金額を下げる手続だ。
(4) 投資期間全体から見た基準の問題点
投資期間全体を通じた投資額の回収可能性という観点から、「固定資産の減損に係る会計基準」の問題点を説明しなさい。
【会計基準に準拠した解答】
投資期間全体を通じた投資額の回収可能性とは、投資の開始から終了までの全期間で、投資額を回収できるかという観点である。この観点から見ると、基準には次の問題点がある。
①過去の回収状況が反映されない
基準は、将来のキャッシュ・フローの総額と帳簿価額を比較して、減損損失を認識するかどうかを判定する。帳簿価額は、減価償却の方法や期間によって決まる未償却残高であり、過去に実際に回収した額とは必ずしも一致しない。そのため、過去の回収が見込みを下回り、投資期間全体では投資額を回収できない場合でも、将来のキャッシュ・フローが帳簿価額を上回れば、減損損失を認識しない。
②認識の判定に貨幣の時間価値が反映されない
基準は、認識の判定では割引前の将来キャッシュ・フローを用い、測定では割引後の回収可能価額を用いる。割引前の総額で判定するため、貨幣の時間価値を考慮すると回収できない場合でも、割引前の総額が帳簿価額を上回れば、減損損失を認識しない。
したがって、基準は、投資期間全体を通じた投資額の回収可能性を、必ずしも十分に反映していないといえる。
(設例①)取得原価1,000、耐用5年、定額法、2年経過。過去2年のCF実績は合計200。将来3年のCFは毎期250(単位:万円)
| 項目 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 過去2年のCF(実績) | — | 200 |
| 将来3年のCF(見積り) | 250×3年 | 750 |
| 投資期間全体のCF | 200+750 | 950 |
| 投資期間全体での回収額−投資額 | 950−1,000 | −50(回収不足) |
| 帳簿価額 | 1,000−200×2年 | 600 |
| 基準による判定 | 将来CF750>帳簿価額600 | 認識しない |
(設例②)帳簿価額800。将来3年のCFは毎期300、割引率10%(単位:万円)
| 年 | CF | 割引係数 | 現在価値 |
|---|---|---|---|
| 1年目 | 300 | 0.9091 | 272.7 |
| 2年目 | 300 | 0.8264 | 247.9 |
| 3年目 | 300 | 0.7513 | 225.4 |
| 合計 | 900 | — | 約746 |
| 割引前の総額900>帳簿価額800なので、減損損失は認識しない。しかし、割引後の746は帳簿価額を約54下回る。 | |||
根拠:固定資産の減損に係る会計基準 二、「固定資産の減損に係る会計基準の設定に関する意見書」(結論の背景を含む)
【やわらかい解答】
問題点は2つある。
①過去に取り戻せた額を見ていない
基準が比べるのは、「これから入るお金」と「帳簿に残っている金額」だけだ。たとえば、1,000万円の設備を買って2年たち、帳簿には600万円残っているとする。この2年間は不調で、200万円しか取り戻せていない。これから3年で750万円入る見込みなら、帳簿の600万円は上回るので、損失は出さない。ところが、2年間の200万円と合わせても950万円で、最初に投資した1,000万円には届かない。投資の全体で見れば、50万円は取り戻せていないのに、減損は出てこない。
②お金の時間による価値の違いを見ていない
将来の100万円は、今の100万円より価値が低い。ところが、損失を出すかどうかの判定では、将来入るお金を割り引かずに、そのまま足し算する。たとえば、帳簿800万円の設備から、毎年300万円が3年入るなら、合計900万円で800万円を上回る。だから、損失は出さない。ところが、将来のお金を今の価値に直す(利子率10%)と、約746万円にしかならず、帳簿の800万円には届かない。
このように、基準の判定では、投資全体を通じて見ると取り戻せていないものが、見過ごされることがある。

1992年生まれ。3人目の育休中。
初めて不動産投資をするときにつまづくことが多く、当時知りたかったことをまとめています。最近は不動産鑑定士の勉強についての記事ばかりです。ドメイン分ければ良かったか・・・。

