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令和7年度 不動産鑑定士試験 論文式 民法
黄色のマーカーは、判例・学説で固まっている解釈の言い回し。答案でそのまま書けるように覚える。
答案の型(クリックで表示)
- パターン1(要件充足型)
- 条文の要件に事実を当てはめれば結論が出る。対立する原則はない。
【問題提起】→【規範】→【あてはめ】→【結論】の1段構成。 - パターン2(原則・例外型)
- 一般原則を適用すると通常の結論になるが、特殊事情によってその結論が覆る、又は制限される。
「1.原則論」【問題提起】【規範】【あてはめ】【結論】
「2.論点・例外」【問題提起】(しかし〜が問題となる)【規範】【あてはめ】【全体の結論】
論点の規範は法規範の要約でよい。趣旨からの理由付けが必要な解釈規範の場合のみ趣旨を書く。 - パターン3(論点先行・積み上げ型)
- 対立する原則はないが、複数の論点を順番にクリアしないと結論に届かない。
【問題提起①】【規範①】【あてはめ①】【小結論①】を「次に、〜について検討する。」で繋ぎ、②③…と続け、最後に【全体の結論】。
問題1 消滅時効と抵当権
(1) 貸金債権の消滅時効と催告(パターン2)
問題文(クリックで表示)
Aは、Bから300万円を借り受け、ちょうど1年後に全額を返済することを約束した。このとき、BがAに対して有する300万円の金銭債権を担保するために、Aの親戚Cは自らが所有する甲土地に、Bのための抵当権を設定し登記を経由した。それから1年が過ぎたが、AはBから借りた300万円を弁済しなかった。
返済の期日から3か月が経過した日に、BはAに300万円を返済するよう求める電子メールを送り、当該電子メールはAに到達した。しかし、Aからは何の反応もなかった。BはAが借金を返済する余裕がない状態にあると判断し、その後、特に連絡をすることもないまま数年が経過した。返済の期日から5年2か月が過ぎた時、Bの側の経済状況が悪くなったため、BはAに対して300万円を返済するよう求めた。
これに対して、Aは、時効を援用し、BがAに対して有する300万円の金銭債権は消滅したと主張した。
Aの主張が認められるか、根拠条文を挙げながら論じなさい。
関連条文(クリックで表示)
- 時効は、当事者(消滅時効にあっては、保証人、物上保証人、第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者を含む)が援用しなければ、裁判所がこれにより裁判をすることができない(145条)
- 債権は、債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき、権利を行使することができる時から10年間行使しないときは、時効により消滅する(166条1項1号・2号)
- 催告があったときは、その時から6箇月を経過するまでの間は、時効は完成しない(150条1項)
- 催告により時効の完成が猶予されている間にされた再度の催告は、完成猶予の効力を有しない(150条2項)
- 時効は、権利の承認があったときは、その時から新たにその進行を始める(152条1項)
1.原則論
Bは、返済期日から5年2か月が経過した時に、Aに300万円の返済を求めたが、Aは時効を援用し、Bの貸金債権の消滅を主張している。そこで、Aの主張が認められるかが問題となる。
この点、債権は、債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき、時効により消滅する(166条1項1号)。時効は、当事者が援用しなければ、裁判所がこれにより裁判をすることができない(145条)。確定期限が定められた債権は、期限が到来した時から権利を行使することができ、債権者はこれを知っているから、時効は期限が到来した時から進行する。
本件では、BのAに対する300万円の債権は、返済期日をちょうど1年後と定めた確定期限付きであり、期日の到来により、Bは権利を行使できることを知った。時効は返済期日から進行し、返済期日から5年2か月が経過した時点で、5年間権利が行使されていない状態にある。Aは債務者として時効を援用している(145条)。
原則として、5年の消滅時効が完成しており、Aの主張が認められる。
2.論点・例外
しかし、Bは、返済期日から3か月が経過した日に、300万円の返済を求める電子メールをAに送り、当該電子メールはAに到達した。そこで、このメールが150条1項の催告にあたり、時効の完成が猶予されて、5年2か月が経過した時点でも時効が完成していないといえるかが問題となる。
この点、催告があったときは、その時から6箇月を経過するまでの間は、時効は完成しない(150条1項)。催告とは、裁判外で債務の履行を請求する意思の通知をいい、書面や電子メールによるものも含まれる。同条の趣旨は、権利者に、時効の完成を阻止する手段を講じるための猶予を与えるにある。そうだとすれば、催告から生ずるのは、6箇月間の完成の猶予にとどまり、時効期間の進行が止まったり、新たに始まったりするものではなく、猶予期間が過ぎれば、もとの時効期間の経過により完成すると解する。猶予の間にされた再度の催告は、完成猶予の効力を有しない(同条2項)。
本件では、Bの電子メールは、300万円の返済を求める旨を内容とし、Aに到達しているから、150条1項の催告にあたる。完成が猶予されるのは、催告から6箇月間、すなわち返済期日から9か月後までである。しかし、5年の時効期間は返済期日から進行を続け、その満了は猶予期間の終了後であるから、猶予期間中に時効が完成する事情はなく、催告により時効期間が6箇月延びることも、新たに進行を始めることもない。Aは何の反応もせず、権利の承認(152条1項)もしていない。猶予期間の終了後も、新たな催告や更新事由がないまま、返済期日から5年が経過したという事情に照らせば、時効は完成している。5年2か月が経過した時点でのBの請求は、すでに完成した時効の効果を覆さない。
したがって、Aの主張は認められ、Bの300万円の貸金債権は時効により消滅した。
(2) 物上保証人の時効援用と抵当権の消滅(パターン3)
問題文(クリックで表示)
Aは、Bから300万円を借り受け、ちょうど1年後に全額を返済することを約束した。このとき、BがAに対して有する300万円の金銭債権を担保するために、Aの親戚Cは自らが所有する甲土地に、Bのための抵当権を設定し登記を経由した。それから1年が過ぎたが、AはBから借りた300万円を弁済しなかった。
BとAとの間に何の連絡もないまま、返済の期日から5年2か月が経過した。そこで、Cは、BがAに対して有する300万円の金銭債権について消滅時効を援用し、Bに対して甲土地の抵当権抹消登記を求めた。Cの請求が認められるか、根拠条文を挙げながら論じなさい。
関連条文(クリックで表示)
- 時効は、当事者(消滅時効にあっては、保証人、物上保証人、第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者を含む)が援用しなければ、裁判所がこれにより裁判をすることができない(145条)
- 債権は、債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないときは、時効により消滅する(166条1項1号)
- 抵当権は、債務者及び抵当権設定者に対しては、その担保する債権と同時でなければ、時効により消滅しない(396条)
物上保証人Cは、BのAに対する貸金債権について消滅時効を援用している。そこで、Cが時効を援用できる者にあたるかが問題となる。
この点、時効は、当事者が援用しなければ、裁判所がこれにより裁判をすることができない(145条)。消滅時効の当事者には、保証人、物上保証人、第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者が含まれる(同条括弧書)。権利の消滅について正当な利益を有する者とは、権利の消滅により直接利益を受ける者をいう。
本件では、Cは、自己の所有する甲土地にBのための抵当権を設定した物上保証人であり、被担保債権が消滅すれば抵当権の負担を免れる。Cは、権利の消滅により直接利益を受ける者として、正当な利益を有する者にあたる。
よって、Cは、Bの貸金債権の消滅時効を援用することができる。
次に、Bの貸金債権の消滅時効が完成したかについて検討する。
BとAの間には、返済期日から5年2か月が経過するまで、何の連絡もなかった。そこで、貸金債権の消滅時効が完成したかが問題となる。
この点、債権は、債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき、時効により消滅する(166条1項1号)。確定期限が定められた債権は、期限が到来した時から権利を行使することができ、債権者はこれを知っているから、時効は期限が到来した時から進行する。催告や承認があれば、時効の完成猶予や更新が生ずる(150条1項、152条1項)。
本件では、貸金債権は確定期限付きであり、時効は返済期日から進行する。返済期日から5年2か月が経過するまで、BとAの間に何の連絡もなく、催告(150条1項)も承認(152条1項)もない。返済期日から5年が経過しており、時効の完成を妨げる事情はない。
よって、貸金債権は、時効により消滅した。
次に、抵当権が消滅し、Cが抹消登記を請求できるかについて検討する。
貸金債権が時効により消滅した場合に、甲土地の抵当権も消滅し、Cが抵当権抹消登記を請求できるかが問題となる。
この点、抵当権は、債務者及び抵当権設定者に対しては、その担保する債権と同時でなければ、時効により消滅しない(396条)。抵当権は被担保債権に付従し、被担保債権が消滅すれば、抵当権も消滅する。抵当権が消滅したときは、所有者は、所有権に基づく妨害排除請求として、抵当権者に対し、抵当権設定登記の抹消登記手続を請求することができる。
本件では、被担保債権である貸金債権は時効により消滅しており、抵当権は付従性により、被担保債権と同時に消滅する。これは、抵当権設定者であるCに対し、被担保債権と同時に消滅する場合であり、396条に反しない。甲土地の所有者であるCは、抵当権設定登記を有するBに対し、抹消登記を請求することができる。
よって、Cは、Bに対し、抵当権設定登記の抹消登記手続を請求することができる。
以上より、Cの請求は認められる。
(3) 承認による更新と抵当権の消滅時効(パターン2)
問題文(クリックで表示)
Aは、Bから300万円を借り受け、ちょうど1年後に全額を返済することを約束した。このとき、BがAに対して有する300万円の金銭債権を担保するために、Aの親戚Cは自らが所有する甲土地に、Bのための抵当権を設定し登記を経由した。それから1年が過ぎたが、AはBから借りた300万円を弁済しなかった。
返済の期日から3か月が経過した日に、BがAに300万円を返済するよう求める電子メールを送ったところ、Aは1万円だけ返済した。その後も、Bが数か月に1度返済を求めるたびに、Aが1万円だけ返済をするという状態が20年余り続いた。返済の期日から21年が経過した時、Aの借金の残額は220万円となっていた。しびれを切らしたBが甲土地の抵当権を実行しようとしたところ、Cは、抵当権は時効により消滅したと主張し、甲土地の抵当権抹消登記を求めた。Cの請求が認められるか、根拠条文を挙げながら論じなさい。
関連条文(クリックで表示)
- 時効は、当事者(消滅時効にあっては、保証人、物上保証人、第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者を含む)が援用しなければ、裁判所がこれにより裁判をすることができない(145条)
- 時効は、権利の承認があったときは、その時から新たにその進行を始める(152条1項)
- 債権は、債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき(166条1項1号)、権利を行使することができる時から10年間行使しないとき(同項2号)は、時効により消滅する
- 債権又は所有権以外の財産権は、権利を行使することができる時から20年間行使しないときは、時効により消滅する(166条2項)
- 抵当権は、債務者及び抵当権設定者に対しては、その担保する債権と同時でなければ、時効により消滅しない(396条)
1.原則論
Cは、返済期日から21年が経過したとして、甲土地の抵当権が時効により消滅したと主張している。そこで、抵当権が20年の消滅時効にかかるかが問題となる。
この点、債権又は所有権以外の財産権は、権利を行使することができる時から20年間行使しないときは、時効により消滅する(166条2項)。抵当権は、債権及び所有権以外の財産権であり、被担保債権の弁済期から実行することができるから、弁済期が時効の起算点となる。時効は当事者が援用しなければならず、物上保証人も援用することができる(145条)。
本件では、甲土地の抵当権は、貸金債権の返済期日から実行できるようになり、返済期日から21年が経過している。物上保証人であるCは、時効の援用権者である(145条)。20年の時効期間(166条2項)を経過しているである以上、一般原則によれば、抵当権は時効により消滅する。
原則として、抵当権は20年の消滅時効により消滅し、Cの請求は認められる。
2.論点・例外
しかし、Aは、Bの求めに応じて、1万円ずつの返済を20年余り続けている。そこで、抵当権の消滅時効が396条により制限されないか、及び被担保債権の消滅時効が承認により更新されていないかが問題となる。
この点、抵当権は、債務者及び抵当権設定者に対しては、その担保する債権と同時でなければ、時効により消滅しない(396条)。そうだとすれば、抵当権設定者は、被担保債権が時効により消滅していない限り、抵当権の消滅を主張することができない。被担保債権の消滅時効は、権利の承認があったときは、その時から新たに進行を始める(152条1項)。債務の一部弁済は、債務の存在を認識していることを示す行為であり、債務全体の承認となる。また、債務者の承認により被担保債権の時効が更新されたときは、物上保証人も、その更新の効力を否定して、被担保債権の消滅時効を援用することはできないと解する。
本件では、Cは抵当権設定者であるから、396条により、抵当権は被担保債権と同時でなければ時効により消滅しない。そこで、被担保債権をみると、Aは、返済期日から3か月が経過した日のBの請求に対して1万円を返済し、その後も、Bが数か月に1度返済を求めるたびに1万円を返済している。これらの一部弁済は、債務の存在を認める承認であり(152条1項)、返済のたびに時効は新たに進行を始める。弁済が数か月に1度の間隔で20年余り続き、5年を超える空白がないという事情に照らせば、被担保債権(残額220万円)の消滅時効は完成していない。Cは、Aの承認による更新の効力を否定して、時効を援用することもできない。
したがって、抵当権は被担保債権と同時でなければ消滅せず、返済期日から20年が経過しても消滅していない。Cの請求は認められない。
なお、消費貸借の成立(587条)は、事案に関係しないため検討していない。
問題2 賃貸借における修繕・相殺と保証
(1) 賃借人の修繕と必要費償還・相殺
問題文・共通の事実(クリックで表示)
Aは2024年2月1日、自己の所有する甲建物の一室(以下、「乙部屋」という。)を、Bに対して、期間2年、賃料月額20万円の約定で賃貸する旨の契約を締結した。
以上を前提に、次の①と②のそれぞれについて答えなさい。
① 修繕費の償還請求(パターン3)
問題文(クリックで表示)
同年5月31日に、乙部屋の天井から雨漏りが発生した。そのため、BはAにその旨を通知するとともに、Cに急遽連絡をして、その修理を行ってもらい、修理代として40万円(本件修理代は適正金額である。)をCに支払った。 Bが直接Cに修理を依頼した理由は、当日も翌日以降も降雨が予想されていたからであった。
この場合に、Bが立て替えた修理代40万円をAに請求することができるか、根拠条文を挙げながら論じなさい。
関連条文(クリックで表示)
- 賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。賃借人の責めに帰すべき事由により修繕が必要となったときは、この限りでない(606条1項)
- 賃借物の修繕が必要である場合において、賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知し、又は賃貸人がその旨を知ったにもかかわらず、賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき(607条の2第1号)、又は急迫の事情があるとき(同条2号)は、賃借人は、その修繕をすることができる
- 賃借人は、賃借物について賃貸人の負担に属する必要費を支出したときは、賃貸人に対し、直ちにその償還を請求することができる(608条1項)
- 賃借物が修繕を要するときは、賃借人は、遅滞なくその旨を賃貸人に通知しなければならない。賃貸人が既にこれを知っているときは、この限りでない(615条)
Bは、乙部屋の天井から雨漏りが発生したため、Aに通知するとともに、Cに直接修理を依頼して修理代40万円を支払った。そこで、賃借人Bが自ら修繕をすることができたかが問題となる。
この点、賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負い、賃借人の責めに帰すべき事由により修繕が必要となったときは、この限りでない(606条1項)。賃借人は、修繕が必要である場合において、賃貸人に通知したが賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき、又は急迫の事情があるときは、自ら修繕をすることができる(607条の2第1号・2号)。賃借人は、修繕が必要であるときは、遅滞なくその旨を賃貸人に通知しなければならない(615条)。
本件では、乙部屋の天井からの雨漏りは、使用及び収益に必要な修繕を要する事態であり、Bの責めに帰すべき事由は見当たらないから、Aが修繕義務を負う(606条1項)。Bは、雨漏りが発生した同日にAに通知しており、615条の通知義務を尽くしている。また、当日も翌日以降も降雨が予想されており、Aの修繕を待つ余裕がなかったという事情に照らせば、急迫の事情がある(607条の2第2号)。
よって、Bは、自ら修繕をすることができた。
次に、修理代40万円を必要費としてAに償還請求できるかについて検討する。
Bが修繕のために支出した修理代40万円について、Aに償還を請求できるかが問題となる。
この点、賃借人は、賃借物について賃貸人の負担に属する必要費を支出したときは、賃貸人に対し、直ちにその償還を請求することができる(608条1項)。必要費とは、賃借物を通常の用法に適する状態に保存するために支出した費用をいう。
本件では、雨漏りの修繕費は、乙部屋を使用及び収益に適する状態に保つための費用であり、必要費である。この修繕はAが負うべき修繕義務(606条1項)の範囲内であり、修理代40万円は適正金額である。Bは、すでに40万円を支出している。
よって、Bは、Aに対し、40万円の償還を直ちに請求することができる(608条1項)。
以上より、Bは、立て替えた修理代40万円を、Aに請求することができる。
② 賃料債務との相殺(パターン2)
問題文(クリックで表示)
①の請求が認められるものと仮定する。この場合に、Aがその支払いを拒絶したので、これに対して、Bは、BがAに対して支払うべき、向こう2か月分の賃料と上記修理代を相殺する旨を主張した。このBの主張が認められるか、根拠条文を挙げながら論じなさい。
関連条文(クリックで表示)
- 二人が互いに同種の目的を有する債務を負担する場合において、双方の債務が弁済期にあるときは、各債務者は、その対当額について相殺により債務を免れることができる。債務の性質がこれを許さないときは、この限りでない(505条1項)
- 相殺は、当事者の一方から相手方に対する意思表示でする。この意思表示には、条件又は期限を付けることができない(506条1項)
- 相殺の意思表示は、双方の債務が互いに相殺に適するようになった時にさかのぼってその効力を生ずる(506条2項)
- 賃借人は、賃借物について賃貸人の負担に属する必要費を支出したときは、賃貸人に対し、直ちにその償還を請求することができる(608条1項)
- 期限は、債務者の利益のために定めたものと推定する(136条1項)
- 期限の利益は、放棄することができるが、これにより相手方の利益を害することはできない(136条2項)
1.原則論
Bは、Aに対する修理代40万円の償還請求権と、Bが支払うべき向こう2か月分の賃料債務とを相殺する旨を主張している。そこで、相殺が認められるかが問題となる。
この点、二人が互いに同種の目的を有する債務を負担する場合において、双方の債務が弁済期にあるときは、各債務者は、対当額について相殺により債務を免れることができる(505条1項)。相殺は、一方から相手方に対する意思表示でし、条件又は期限を付けることができない(506条1項)。相殺をする側の債権(自働債権)は弁済期にあることを要し、相殺される側の債権(受働債権)も、原則として弁済期にあることを要する。
本件では、BとAは、互いに金銭の支払債務という同種の目的の債務を負担している。Bの償還請求権は、必要費の支出により直ちに請求できる債権であるから、弁済期にある(608条1項)。他方、Bが支払うべき向こう2か月分の賃料債務は、弁済期が到来していない。Bは、相殺の意思表示を、条件も期限も付けずにしている(506条1項)。双方の債務が弁済期にあるとはいえない。
原則として、受働債権である賃料債務の弁済期が到来していないから、相殺の要件を満たさず、Bの主張は認められない。
2.論点・例外
しかし、賃料債務の期限は、債務者であるBの利益のために定められたものと考えられる。そこで、Bが賃料債務の期限の利益を放棄して、相殺をすることができるかが問題となる。
この点、期限は、債務者の利益のために定めたものと推定され(136条1項)、期限の利益は、放棄することができるが、これにより相手方の利益を害することはできない(同条2項)。そうだとすれば、自働債権が弁済期にあれば、受働債権の弁済期が到来していなくても、受働債務者は、期限の利益を放棄して相殺することができると解する。
本件では、賃料債務の期限は、債務者であるBの利益のために定められたものと推定される(136条1項)。Bの償還請求権(自働債権)は弁済期にあり、Aは、直ちに40万円をBに支払う義務を負っている。Aは、すでに履行すべき40万円の債務を免れる一方で、賃料債権が同額だけ消滅するにすぎないという事情に照らせば、期限の利益の放棄によりAの利益が害されるとはいえない。Bは、相殺の意思表示をしており(506条1項)、これにより期限の利益を放棄したと評価できる。
したがって、Bの相殺の主張は認められる。相殺の効力は、双方の債務が相殺に適するようになった時にさかのぼって生ずる(506条2項)。
(2) 賃貸借の根保証と極度額(パターン2)
問題文(クリックで表示)
Dは、2021年7月1日、自己の所有する丙建物の一室(以下、「丁部屋」という。)を、Eに対して、期間5年、賃料月額20万円の約定で賃貸する旨の契約(以下、「本賃貸借契約」と呼ぶ。)を締結した。そして同日、Fは、本賃貸借契約によりEがDに対して負う一切の債務を保証する旨の保証契約をDと書面により締結した。この保証契約においては、極度額を200万円とすると定められ、その旨が契約書に明示された。
2024年1月分以降、EはDに対して賃料の支払いを怠った。そのため、DはEに対して再三、未払賃料を支払うよう請求した。にもかかわらず、EはDに対して1円も支払わなかった。そこで、同年11月1日、Dは同月末日をもって本賃貸借契約を解除する旨の意思表示をEに対して行った。そして、同年11月30日、Eは丁部屋をDに明け渡した。
この場合に、DはFに対して、Eが弁済を怠った11か月分の賃料として、合計220万円を請求することができるであろうか。できないとすれば、いくら請求することができるか、根拠条文を挙げながら論じなさい。
関連条文(クリックで表示)
- 保証人は、主たる債務者がその債務を履行しないときに、その履行をする責任を負う(446条1項)
- 保証契約は、書面でしなければ、その効力を生じない(446条2項)
- 一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約(根保証契約)であって保証人が法人でないもの(個人根保証契約)の保証人は、主たる債務の元本、利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのもの及びその保証債務について約定された違約金又は損害賠償の額について、その全部に係る極度額を限度として、履行をする責任を負う(465条の2第1項)
- 個人根保証契約は、極度額を定めなければ、その効力を生じない(465条の2第2項)。極度額の定めには、446条2項・3項の規定が準用される(465条の2第3項)
- 個人根保証契約であって、主たる債務の範囲に金銭の貸渡し又は手形の割引を受けることで負担する債務が含まれるもの(個人貸金等根保証契約)の元本確定期日の規律(465条の3)
1.原則論
Fは、EがDに対して負う一切の債務を保証する旨の保証契約を、Dと書面で締結している。Eは、2024年1月分から11月分までの賃料を支払っていない。そこで、DがFに対し、11か月分の賃料合計220万円の全額を請求できるかが問題となる。
この点、保証人は、主たる債務者がその債務を履行しないときに、その履行をする責任を負う(446条1項)。保証契約は、書面でしなければ、その効力を生じない(同条2項)。
本件では、FとDの保証契約は書面でされており、効力を生じる(446条2項)。Eは、2024年1月分から11月分まで、月額20万円の賃料11か月分、合計220万円を支払っておらず、Dは同年11月末日をもって本賃貸借契約を解除しているから、未払賃料は220万円である。Eが賃料の支払いを怠っているという事情に照らせば、Fは原則として、主たる債務の全額である220万円について、保証債務の履行責任を負う。
原則として、DはFに対し、220万円全額を請求できる。
2.論点・例外
しかし、本件の保証契約は、本賃貸借契約によりEがDに対して負う一切の債務を保証するものであり、極度額を200万円とする旨が契約書に明示されている。そこで、この保証契約が個人根保証契約にあたり、Fは極度額を限度としてしか責任を負わないかが問題となる。
この点、一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約で、保証人が法人でないもの(個人根保証契約)の保証人は、主たる債務の元本、利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのもの及びその保証債務について約定された違約金又は損害賠償の額について、その全部に係る極度額を限度として、履行をする責任を負う(465条の2第1項)。個人根保証契約は、極度額を定めなければ、効力を生じず(同条2項)、極度額の定めは書面でしなければならない(同条3項、446条2項)。賃借人の債務一切を保証する契約は、賃料や損害賠償など将来生ずる不特定の債務を主たる債務とするから、根保証契約となる。元本確定期日に関する定め(465条の3)は、主たる債務の範囲に金銭の貸渡し又は手形の割引を受けることで負担する債務(貸金等債務)が含まれる場合に適用される。
本件では、Fは、EがDに対して負う一切の債務を保証しており、賃料や損害賠償など将来生ずる不特定の債務が主たる債務であるから、根保証契約である。問題文にFが法人であるとの事情はなく、Fは個人であるから、個人根保証契約である(465条の2第1項)。この保証契約には、極度額を200万円とする定めがあり、その旨は契約書に明示されているから、極度額の定めは書面でされており、効力を生じる(同条2項・3項)。Eの未払賃料は220万円であるが、Fの責任は極度額200万円を限度とするから、超過する20万円について、Fは責任を負わない。なお、本件の主たる債務は賃料債務であり、金銭の貸渡し等による債務を含まないから、元本確定期日に関する465条の3は適用されない。
したがって、DはFに対し、220万円を請求することはできず、極度額である200万円を限度として請求できる。超過する20万円は、主たる債務者であるEに請求することになる。
なお、時効に関する規定は、事案に関係しないため検討していない。
出題の要旨
国土交通省HPのコピペです。
【問題1】
この問題は、消滅時効及び抵当権の消滅について、基本的な理解を問うものである。
設問(1)においては、債権の消滅時効の起算点、時効期間、時効障害、時効の援用について、条文に基づき説明することを求めている。
設問(2)においては、時効の援用権者及び抵当権の付従性についての理解を求めている。
設問(3)においては、債権の消滅時効及び時効障害と抵当権との関係について説明することを求めている。
【問題2】
設問(1)は、①賃借人が自ら業者にお願いをして賃借建物の雨漏りを修繕し費用を支出した場合に、その費用償還請求を賃貸人に対してすることができるか、また②賃借人が、賃料債務に関する期限の利益を放棄して、賃貸人に対して有する費用償還請求権との相殺を主張することができるかについて、根拠条文を明示して説明することを求めている。
設問(2)は、賃貸借契約における保証人が、賃借人の未払賃料債務に関しどの範囲で責任を負うのかについて、極度額等に留意しながら、論理的に説明することを求めている。

1992年生まれ。3人目の育休中。
初めて不動産投資をするときにつまづくことが多く、当時知りたかったことをまとめています。最近は不動産鑑定士の勉強についての記事ばかりです。ドメイン分ければ良かったか・・・。

