【令和6年不動産鑑定士試験】民法 過去問解答

令和6年度 不動産鑑定士試験 論文式 民法

黄色のマーカーは、判例・学説で固まっている解釈の言い回し。優先的に覚える。

答案の型(クリックで表示)
パターン1(要件充足型)
条文の要件に事実を当てはめれば結論が出る。対立する原則はない。
【問題提起】→【規範】→【あてはめ】→【結論】の1段構成。
パターン2(原則・例外型)
一般原則を適用すると通常の結論になるが、特殊事情によってその結論が覆る、又は制限される。
「1.原則論」【問題提起】【規範】【あてはめ】【結論】
「2.論点・例外」【問題提起】(しかし〜が問題となる)【規範】【あてはめ】【全体の結論】
論点の規範は法規範の要約でよい。趣旨からの理由付けが必要な解釈規範の場合のみ趣旨を書く。
パターン3(論点先行・積み上げ型)
対立する原則はないが、複数の論点を順番にクリアしないと結論に届かない。
【問題提起①】【規範①】【あてはめ①】【小結論①】を「次に、〜について検討する。」で繋ぎ、②③…と続け、最後に【全体の結論】。

問題1 共同相続と共有

(1) 遺産分割と登記(パターン3)

問題文(クリックで表示)

Aは、甲土地(その時価は2,000万円)及び銀行預金2,000万円を残して死亡した。その法定相続人は、B及びC(いずれもAの子)であった。

BC間の遺産分割協議の結果、甲土地に関しては、Bがその全部を取得することになった。ところが、Bがその旨の登記を備えない間に、Cに対して債権を有しているDが、甲土地について、Cには持分2分の1があると考え、Cを代位して、B及びCの持分を各2分の1とする共同相続登記を行った。その上で、Dは、甲土地に対するCの持分権を差し押さえた。その際、Dは、BC間で上記遺産分割協議が成立していたことを知らなかった。

この場合に、Bは、甲土地全部の所有権取得をDに対抗することができるであろうか。根拠条文を挙げながら論じなさい。

関連条文(クリックで表示)
  • 被相続人の子は、相続人となる(887条1項)
  • 相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する(898条1項)。共有の規定を適用するときは、900条から902条までにより算定した相続分をもって各相続人の共有持分とする(898条2項)
  • 子が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする(900条4号)
  • 遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない(909条)
  • 相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、法定相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない(899条の2第1項)
  • 不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない(177条)
【問題提起①】

Bは、BC間の遺産分割協議により甲土地の全部を取得したが、その旨の登記を備えていない。そこで、遺産分割による権利の取得について、第三者に対抗するために対抗要件を要するか、要するとすればその範囲はどこまでかが問題となる。

【規範①】

この点、相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、法定相続分を超える部分については、登記等の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない(899条の2第1項、177条)。遺産の分割は相続開始の時にさかのぼって効力を生ずるが、第三者の権利を害することはできない(909条)。法定相続分は、子が数人あるときは、各自相等しい(900条4号)。対抗要件を要するのは、遺産分割により取得した持分のうち法定相続分を超える部分に限られ、法定相続分の範囲では、対抗要件なくして第三者に対抗することができる。

【あてはめ①】

本件では、B及びCはAの子であり、いずれも相続人である(887条1項)。その法定相続分は、各2分の1である(900条4号)。Bは、遺産分割により甲土地の全部を取得したから、法定相続分である2分の1を超える2分の1(Cの法定相続分に相当する部分)については、登記等の対抗要件を備えなければ第三者に対抗することができない。Bは、その旨の登記を備えていない。他方、Bの法定相続分である2分の1については、対抗要件を要しない。

【小結論①】

よって、Bは、法定相続分の2分の1については、対抗要件なくして対抗でき、これを超える2分の1については、対抗要件を備えない限り、第三者に対抗することができない。

次に、Dが899条の2第1項の第三者にあたるかについて検討する。

【問題提起②】

Dは、Cに対して債権を有する者であり、Cを代位して共同相続登記をした上で、Cの持分権を差し押さえている。Dは、BC間の遺産分割協議の成立を知らなかった。そこで、Dが第三者にあたるか、また、Dが遺産分割協議の成立を知らなかったことが結論に影響するかが問題となる。

【規範②】

この点、第三者とは、当事者及びその包括承継人以外の者で、対抗要件の欠缺を主張する正当な利益を有する者をいう。共有持分を差し押さえた債権者は、その持分について法律上の利害関係を有するから、第三者にあたる。また、対抗要件の有無は、第三者の善意悪意を問わずに判断される。対抗要件の欠缺を主張することができないのは、信義則に反する背信的悪意者に限られる。

【あてはめ②】

本件では、Dは、Cに対して債権を有し、Cの持分権を差し押さえた者であり、B・Cの当事者でも、その包括承継人でもない。Dは、Cの持分について法律上の利害関係を有する差押債権者として、対抗要件の欠缺を主張する正当な利益を有する者であり、第三者にあたる。また、Dは、BC間の遺産分割協議が成立していたことを知らなかったという事情に照らせば、背信的悪意者とはいえず、対抗要件の欠缺を主張することができる。

【小結論②】

よって、Dは第三者であり、Bは、対抗要件を備えていない部分について、Dに対抗することができない。

【全体の結論】

以上より、Bは、法定相続分である2分の1の持分の取得はDに対抗できるが、これを超えるCの法定相続分に相当する2分の1の持分の取得はDに対抗できない。したがって、Bは、甲土地全部の所有権取得をDに対抗することはできない。

(2) 共有物の使用と管理

問題文・共通の事実(クリックで表示)

令和5年5月30日、Wは、法定相続人として、X、Y、Z(いずれもWの子)を残して死亡した。Wの遺産の中には、N県にある一戸建ての別荘(以下、「本件別荘」という。)も含まれていた。

X、Y、Z3者の遺産分割協議の結果、本件別荘に関しては、X、Y、Zが持分3分の1ずつで共有することとし、各人は、他の共有者に対しあらかじめ利用期間を通知することで、本件別荘を利用することができる(利用希望が重なったときは調整する。)とされた。にもかかわらず、その後、Yが本件別荘を勝手に単独で使い続けており、そのことに対して、XとZが不満を抱いている。

この場合に、次の①から③のそれぞれについて答えなさい。

① 明渡請求(パターン3)

問題文(クリックで表示)

Xは、本件別荘を勝手に単独で使い続けるYに対して、本件別荘の明渡請求をすることができるであろうか。根拠条文を挙げながら論じなさい。

関連条文(クリックで表示)
  • 相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する(898条1項)
  • 各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる(249条1項)
  • 共有物の管理に関する事項は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。共有物を使用する共有者があるときも、同様とする(252条1項)
  • 各共有者は、前各項の規定にかかわらず、保存行為をすることができる(252条5項)
【問題提起①】

Xは、持分3分の1を有する共有者として、本件別荘を勝手に単独で使い続けるYに対し、明渡しを請求している。そこで、まず、Yが共有者として本件別荘を使用する権原を有するかが問題となる。

【規範①】

この点、各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる(249条1項)。共有者の一人が共有物を単独で占有していても、その占有が持分に基づくものである限り、他の共有者は、持分権に基づいて当然には明渡しを請求することができない。

【あてはめ①】

本件では、本件別荘は、Wの相続により、X・Y・Zが持分3分の1ずつで共有している(898条1項)。Yは、共有者として、本件別荘の全部について持分に応じた使用をすることができる(249条1項)。Yが、協議の定めに反して利用期間の通知をしないまま単独で使い続けているとしても、Yが持分3分の1を有する共有者であるという事情に照らせば、Yの占有は持分に基づく使用であり、直ちに権原のない占有になるとはいえない。

【小結論①】

よって、Yの占有が持分に基づく使用である以上、Xは、持分権に基づいて当然に明渡しを請求することはできない。

次に、協議の定めに反するYの使用を排除して、Xが単独で明渡しを請求できるかについて検討する。

【問題提起②】

Yは、利用期間を通知する旨の協議の定めに反して使用している。そこで、この違反を理由に、Xが単独でYの使用を排除する明渡しを請求できるか、すなわち、明渡しが保存行為又は過半数で決する管理に関する事項のいずれにあたるかが問題となる。

【規範②】

この点、共有物の管理に関する事項は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する(252条1項)。共有物を使用する共有者があるときも、同様である(同項後段)。他方、各共有者は、保存行為を単独ですることができる(252条5項)。保存行為とは、共有物の現状を維持する行為をいう。そうだとすれば、共有物を使用する共有者の使用を排除してその状態を改める行為は、保存行為にあたらず、管理に関する事項として、持分の価格の過半数で決することを要すると解する。

【あてはめ②】

本件では、Yの使用を排除して明渡しを求めることは、共有物の使用状態を改めるものであり、現状を維持する保存行為にはあたらない。これは管理に関する事項として、持分の価格の過半数で決する必要がある(252条1項)。Xの持分は3分の1にとどまり、過半数に達せず、Zの同意を得たとの事情もないという事情に照らせば、Xが単独で決めることはできない。

【小結論②】

よって、Xは、単独では、協議の定めに反することを理由としても、Yに対し、明渡しを請求することができない。

【全体の結論】

以上より、Xは、Yに対し、本件別荘の明渡請求をすることができない。なお、使用の対価の請求は②で、共有状態を続けたままXが利用する方法は③で検討する。

② 使用の対価の償還請求(パターン1)

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Xは、本件別荘を利用できなかった損失分について、Yに対して、金銭の支払を請求することができるであろうか。本件別荘を賃貸した場合、その家賃は、月額12万円が相当であることを前提に、根拠条文を挙げながら論じなさい。

関連条文(クリックで表示)
  • 相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する(898条1項)
  • 各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる(249条1項)
  • 共有物を使用する共有者は、別段の合意がある場合を除き、他の共有者に対し、自己の持分を超える使用の対価を償還する義務を負う(249条2項)
【問題提起】

Xは、本件別荘を利用できなかった損失分として、Yに対し、金銭の支払を請求している。そこで、XがYに対し、使用の対価の償還を請求できるか、できるとすればその額はいくらかが問題となる。

【規範】

この点、共有物を使用する共有者は、別段の合意がある場合を除き、他の共有者に対し、自己の持分を超える使用の対価を償還する義務を負う(249条2項)。持分を超える使用の対価とは、共有物全部の使用の対価(賃料相当額)のうち、使用する共有者の持分を超える部分をいい、他の共有者は、各自の持分に応じてその償還を請求することができる。

【あてはめ】

本件では、Yは、持分3分の1を有するにとどまるのに、本件別荘の全部を単独で使用している(898条1項、249条1項)。X・Y・Zの協議は、利用期間の通知と調整を定めるにとどまり、使用の対価の償還義務を排除する別段の合意とはいえない。したがって、Yは、持分を超える使用の対価を償還する義務を負う(249条2項)。本件別荘の賃料相当額は月額12万円であり、Yの持分は3分の1であるから、Yが償還すべき対価は、持分を超える3分の2に相当する月額8万円(12万円×2/3)である。X・Zの持分は各3分の1で等しいから、Xが請求できるのは、その2分の1である月額4万円(12万円×1/3)である。

【結論】

よって、Xは、Yに対し、Yが単独使用を続けた期間について、月額4万円の支払を請求することができる(249条2項)。

③ 共有状態を続けたままの利用方法(パターン3)

問題文(クリックで表示)

Xが、Y及びZとの共有状態を続けたまま、本件別荘を利用したいと考える場合、Xはどのような方法を採ることができるであろうか。根拠条文を挙げながら論じなさい。

関連条文(クリックで表示)
  • 相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する(898条1項)
  • 各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる(249条1項)
  • 各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く)を加えることができない(251条1項)
  • 共有物の管理に関する事項は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。共有物を使用する共有者があるときも、同様とする(252条1項)
  • 252条1項・2項の決定が、共有者間の決定に基づいて共有物を使用する共有者に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない(252条3項)
【問題提起①】

Xは、Y・Zとの共有状態を続けたまま、本件別荘を利用したいと考えている。そこで、まず、協議の定めに従い、Xが本件別荘を利用することができるかが問題となる。

【規範①】

この点、各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる(249条1項)。共有者間で共有物の利用方法を定めたときは、各共有者は、その定めに従って使用する。

【あてはめ①】

本件では、Xは、Wの相続により、本件別荘について持分3分の1を有する共有者であり(898条1項)、協議により、他の共有者にあらかじめ利用期間を通知すれば、本件別荘を利用することができ、利用希望が重なったときは調整するとされている。Xは、Y・Zに利用期間を通知することで、本件別荘を利用することができる。

【小結論①】

よって、Xは、Y・Zに利用期間を通知し、利用希望が重なれば調整して、本件別荘を利用することができる。

次に、Yが単独で使い続けて、通知と調整だけでは利用できない場合に、Xがとることのできる方法について検討する。

【問題提起②】

Yは、通知もせずに単独で使い続けており、通知と調整だけでは、Xが利用できないおそれがある。そこで、Xが、Zとともに、Yの同意なく、利用方法を決定して利用することができるかが問題となる。

【規範②】

この点、共有物の管理に関する事項は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する(252条1項)。共有物を使用する共有者があるときも、同様とする(同項後段)。共有物の利用期間や使用の順番などの利用方法の決定は、形状又は効用の著しい変更を伴わないから、変更(251条1項)にはあたらず、管理に関する事項にあたる。この決定が、共有者間の決定に基づいて共有物を使用する共有者に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない(252条3項)。

【あてはめ②】

本件では、Xの持分は3分の1であり、単独では過半数に満たない。Zの賛同を得れば、X・Zの持分の合計は3分の2となり、過半数を満たすから、Yの同意がなくても、Xの利用期間などの利用方法を決定することができ、Yが現に使用していても同様である(252条1項後段)。Yは、協議の定めに反して単独で使い続けており、共有者間の決定に基づいて使用しているとはいえないという事情に照らせば、252条3項によるYの承諾は要しないと考えられる。

【小結論②】

よって、Xは、Zの賛同を得て、持分の価格の過半数でXの利用方法を決定し、その決定に基づいて本件別荘を利用することができる。

【全体の結論】

以上より、Xは、(ア)協議の定めに従い、Y・Zに利用期間を通知して利用する方法、(イ)Yが応じないときは、Zの賛同を得て、持分の価格の過半数で利用方法を決定し(252条1項)、これに基づいて利用する方法を採ることができる。なお、共有物の分割請求(256条1項)は、共有状態を続けるという前提に反するため、検討していない。

問題2 土壌汚染と契約不適合責任

問題文・共通の事実(クリックで表示)

Xは、平成3年3月15日、Yから、その所有する土地(以下、「本件土地」という。)を買い受けた(以下、この契約を「本件売買契約」という。)。本件土地の土壌には、本件売買契約締結当時からふっ素が含まれていたが、その当時、土壌に含まれるふっ素については、法令に基づく規制の対象となっていなかったし、取引観念上も、ふっ素が土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生ずるおそれがあるとは認識されておらず、Xもそのような認識を有していなかった。

平成15年2月15日、土壌汚染対策法及び土壌汚染対策法施行令が施行された。これらによって、ふっ素は、特定有害物質(注1)と定められ、上記特定有害物質については溶出量基準値(注2)及び含有量基準値(注3)(以下、これらをあわせて「両基準値」という。)が定められた。

(注1)それが土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生ずるおそれがあるもの

(注2)土壌に水を加えた場合に溶出する量に関する基準値

(注3)土壌に含まれる量に関する基準値

本件土地につき、土壌の汚染状況の調査が行われた結果、平成17年11月2日、その土壌に両基準値のいずれをも超えるふっ素が含まれていることが判明した。

上記事実について、次の設問(1)及び(2)のそれぞれについて答えなさい。なお、各設問は独立した別個の問である。また、これらに答える際、土壌汚染対策法等の公法上の規制については検討しなくてよい。また、上記年月日にかかわらず、令和5年9月1日時点で施行されている法令に基づき、答えなさい。

(1) 契約不適合の有無(パターン1)

問題文(クリックで表示)

Xは、Yに対し、本件土地の土壌に、ふっ素が両基準値のいずれをも超えて含まれていたことが契約不適合に当たると主張した。この主張が認められるか、論じなさい。

関連条文(クリックで表示)
  • 引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる(562条1項)
  • 買主は、契約不適合を理由として、代金の減額を請求することができる(563条)
  • 562条・563条の規定は、415条による損害賠償の請求並びに541条及び542条による解除権の行使を妨げない(564条)
【問題提起】

Xは、本件土地の土壌に、ふっ素が両基準値のいずれをも超えて含まれていたことが契約不適合にあたると主張している。ふっ素は、売買契約の締結当時、法令に基づく規制の対象でなく、取引観念上も人の健康に係る被害を生ずるおそれがあるとは認識されていなかったが、その後、平成15年に特定有害物質と定められ、両基準値が設けられた。そこで、契約締結後に規制の対象となったふっ素が含まれていたことが、品質に関する契約不適合にあたるかが問題となる。

【規範】

この点、引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、履行の追完を請求することができ(562条1項)、代金の減額、損害賠償の請求及び解除権の行使もすることができる(563条、564条)。目的物が品質に関して契約の内容に適合しているかどうかは、当事者の合意や契約の趣旨に照らして判断され、特段の合意がない場合には、売買契約締結当時の取引観念を考慮して、目的物が通常有すべき品質を備えているかどうかによって判断される。そうだとすれば、契約締結後に法令が改められて規制の対象となった事情は、契約の内容に適合するかどうかの判断を左右しないと解する。

【あてはめ】

本件では、本件売買契約が締結されたのは平成3年3月15日であり、土壌にはその当時からふっ素が含まれていた。しかし、当時、ふっ素は法令に基づく規制の対象でなく、取引観念上も、土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生ずるおそれがあるとは認識されておらず、Xも認識していなかったという事情に照らせば、ふっ素を含まない土壌であることが、契約当時の取引観念上、本件土地が通常有すべき品質であったとはいえない。また、ふっ素が含まれないことを前提とする合意など、契約の趣旨からふっ素を含まない品質が求められていたことを示す事情はない。ふっ素が特定有害物質と定められたのは平成15年、両基準値の超過が判明したのは平成17年であり、いずれも契約締結後の事情にすぎない。なお、引渡しの時期は問題文に示されていないが、契約締結当時から平成15年の法令の施行までの間に事情の変化はないから、引渡時を基準としても結論は同じである。

【結論】

よって、本件土地の土壌にふっ素が両基準値のいずれをも超えて含まれていたことは、契約の内容に適合しないとはいえず、契約不適合にあたるとはいえない。したがって、Xの主張は認められない。

(2) 買主の救済手段(パターン3)

問題文(クリックで表示)

上記(1)の自身の解答にかかわらず、仮に、この主張が認められ、本件土地の土壌に、ふっ素が両基準値のいずれをも超えて含まれていたことが契約不適合に当たるとすれば、Xは、Yに対し、どのような請求ができるか、複数の請求を挙げた上で、その請求が認められるか、それぞれ論じなさい。

関連条文(クリックで表示)
  • 買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる(562条1項)。不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、追完を請求することができない(562条2項)
  • 債務の履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして不能であるときは、債権者は、その債務の履行を請求することができない(412条の2第1項)
  • 買主が相当の期間を定めて履行の追完の催告をし、その期間内に履行の追完がないときは、買主は、その不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができる(563条1項)。履行の追完が不能であるときは、催告なく直ちに代金の減額を請求することができる(563条2項1号)。不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、代金の減額を請求することができない(563条3項)
  • 債務者が債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない(415条1項)
  • 当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行が契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない(541条)
  • 債務の全部の履行が不能であるとき、又は債務の一部の履行が不能である場合において残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないときは、催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができる(542条1項1号・3号)
  • 562条・563条の規定は、415条による損害賠償の請求並びに541条及び542条による解除権の行使を妨げない(564条)
  • 売主が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合において、買主がその不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しないときは、買主は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。ただし、売主が引渡しの時にその不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、この限りでない(566条)
【問題提起①】

仮に契約不適合にあたるとすれば、Xは、Yに対し、追完請求、代金減額請求、損害賠償請求及び解除をすることが考えられる。そこで、まず、これらすべてに共通する期間制限として、不適合を知った時から1年以内の通知を要するかが問題となる。

【規範①】

この点、売主が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合において、買主がその不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しないときは、買主は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない(566条本文)。ただし、売主が引渡しの時にその不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、この限りでない(同条ただし書)。

【あてはめ①】

本件では、Xが不適合を知ったのは、土壌調査によりふっ素の含有が判明した平成17年11月2日であり、通知の期限は平成18年11月2日である。Xが同日までにYへ通知したかは、問題文からは明らかでない。また、Yは、売買当時、ふっ素が含まれることを知らず、取引観念上も認識されていなかったという事情に照らせば、引渡しの時に不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったとはいえず、ただし書は適用されない。

【小結論①】

よって、Xが平成18年11月2日までにYへ通知していれば、以下の各請求は期間制限により妨げられない。通知していなければ、いずれの請求もできない。以下は、通知がされたことを前提に検討する。

次に、履行の追完請求について検討する。

【問題提起②】

Xは、ふっ素を含む土壌の除去などを求めることが考えられる。そこで、XがYに対し、履行の追完を請求できるかが問題となる。

【規範②】

この点、引き渡された目的物が品質に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる(562条1項本文)。ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる(同項ただし書)。追完請求は、債務の本旨に従った履行を求めるものであり、売主の帰責事由を要しない。不適合が買主の責めに帰すべき事由によるときは、請求することができず(562条2項)、履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして不能であるときも、請求することができない(412条の2第1項)。

【あてはめ②】

本件では、本件土地は特定物であり、代替物の引渡しや不足分の引渡しは問題とならず、追完の方法は、ふっ素を含む土壌の除去や入替えなどの修補である。ふっ素は売買前から土壌に含まれており、Xの責めに帰すべき事由によるものではない(562条2項)。土壌の除去が技術的に不可能である、又は取引上の社会通念に照らして過分の費用を要するなどの事情は示されておらず、追完は可能であるといえる。Yは、Xに不相当な負担を課すものでない限り、Xが求める方法と異なる方法で追完をすることもできる(同条1項ただし書)。

【小結論②】

よって、Xは、Yに対し、ふっ素を含む土壌の除去等、目的物の修補による履行の追完を請求することができる。

次に、代金減額請求について検討する。

【問題提起③】

Xが、追完に代えて、代金の減額を請求できるかが問題となる。

【規範③】

この点、買主が相当の期間を定めて履行の追完の催告をし、その期間内に履行の追完がないときは、買主は、その不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができる(563条1項)。履行の追完が不能であるときなどは、催告をすることなく、直ちに代金の減額を請求することができる(同条2項1号)。不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、請求することができない(同条3項)。代金減額請求は、売主の帰責事由を要しない。

【あてはめ③】

本件では、Xの責めに帰すべき事由はない。Xが相当の期間を定めて追完を催告し、Yが期間内に追完しなければ、Xは、不適合の程度に応じた代金の減額を請求できる(563条1項)。また、土壌の除去が不能であるときは、催告なく直ちに減額を請求できる(同条2項1号)。

【小結論③】

よって、Xは、追完の催告後の相当期間内に追完がないとき、又は追完が不能であるときは、不適合の程度に応じて、Yに対し、代金の減額を請求することができる。

次に、損害賠償請求について検討する。

【問題提起④】

Xが、Yに対し、不適合により生じた損害(土壌の除去費用など)の賠償を請求できるかが問題となる。

【規範④】

この点、買主は、契約不適合を理由として、債務不履行による損害賠償を請求することができる(564条、415条1項本文)。ただし、債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない(415条1項ただし書)。損害賠償請求は、追完請求や代金減額請求と異なり、債務者の帰責事由を要し、責めに帰することができない事由の有無は、契約の趣旨及び取引上の社会通念に照らして判断する。

【あてはめ④】

本件では、仮定により契約不適合があるから、債務の本旨に従った履行がなく、土壌の除去費用などの損害が生じ得る。しかし、Yは、売買当時、ふっ素が含まれることを知らず、ふっ素は法令に基づく規制の対象でなく、取引観念上も人の健康に係る被害を生ずるおそれがあるとは認識されていなかったという事情に照らせば、契約当時の取引上の社会通念に照らして、不履行は、Yの責めに帰することができない事由によるものといえる。

【小結論④】

よって、Xは、Yに対し、損害賠償を請求することができない。

次に、契約の解除について検討する。

【問題提起⑤】

Xが、本件売買契約を解除できるかが問題となる。

【規範⑤】

この点、当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる(541条本文)。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行が契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない(同条ただし書)。履行が不能であるときなど、一定の場合には、催告をすることなく直ちに契約を解除することができる(542条1項)。買主の解除権の行使は、契約不適合によっても妨げられない(564条)。解除は、債務者の帰責事由を要しない。

【あてはめ⑤】

本件では、Xが相当の期間を定めて追完を催告し、Yが期間内に追完しなければ、Xは解除をすることができる(541条本文)。土壌に両基準値のいずれをも超えるふっ素が含まれていることは、人の健康に係る被害を生ずるおそれがあり、土地の利用に支障を及ぼすから、その不履行は、契約及び取引上の社会通念に照らして軽微とはいえない。追完が不能であって、契約をした目的を達することができないときは、催告なく直ちに解除をすることができる(542条1項)。もっとも、Xの土地の利用目的は問題文に示されていないから、この場合にあたるかは明らかでない。

【小結論⑤】

よって、Xは、追完の催告をしても追完がない場合には、本件売買契約を解除することができる。

【全体の結論】

以上より、Xは、Yに対し、履行の追完請求(ふっ素を含む土壌の除去等)、代金減額請求及び解除をすることができるが、損害賠償請求は、Yに帰責事由がないため認められない。ただし、いずれの請求も、Xが不適合を知った平成17年11月2日から1年以内(平成18年11月2日まで)にYへ通知していることが前提であり、通知がなければ、566条により、すべての請求が認められない。

なお、不適合を知った平成17年から長期間が経過しており、消滅時効(166条1項)が問題となり得るが、援用等の事実が問題文に示されていないため検討していない。

出題の要旨

【問題1】
設問(1)では、遺産分割によって不動産所有権を取得した相続人が、その全部取得を第三者に対抗するためには登記が必要かについて適切な根拠条文を
挙げるとともに、差押債権者の「第三者」性に関する的確な理解とそれに基づく結論の明示を求めている。
設問(2)では、共有持分権者は、共有物を勝手に単独で使用する他の共有持分権者に対して、明渡請求をすることができるか、また金銭の支払請求をすることができるか、さらに共有状態を続けたまま自らも利用したい場合、いかなる方法を採れるかに関して、関連判例や根拠条文を踏まえて、的確な結論を導くことを求めている。
【問題2】
この問題は、契約不適合責任の要件と効果についての基本的な理解を問うものである。
設問(1)は、要件(562 条 1 項にいう「引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるとき」)についての基本的な理解を問うものである。なお、債権等の消滅時効を用いて論じることもできる。
設問(2)は、効果(買主の追完請求権、代金減額請求権、損害賠償請求及び解除権の行使)についての基本的な理解を問うものである。

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