【令和8年不動産鑑定士試験】鑑定理論(論文)解答

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※は、基準・留意事項に直接の記載がなく、一般的理解で補った部分、または教材により呼称が異なる部分である。

令和8年度 鑑定評価の条件設定

鑑定評価の条件設定に関する次の各設問に答えなさい。

(1) 鑑定評価の条件設定の意義を述べなさい。

(1) 解答の骨子

1 条件設定の必要性(留意事項Ⅲ1(1))

鑑定評価に際し、現実の用途及び権利の態様並びに地域要因及び個別的要因を所与として不動産の価格を求めることのみでは、多様な不動産取引の実態に即応することができず、社会的な需要に応ずることができない場合があるので、条件設定の必要性が生じる。

2 条件設定の内容(留意事項Ⅲ1(1))

①対象確定条件:依頼目的に応じて対象不動産の内容を確定する。
②地域要因又は個別的要因についての想定上の条件:設定する想定上の条件を明確にする。
③調査範囲等条件:不動産鑑定士の通常の調査では事実の確認が困難な特定の価格形成要因について、調査の範囲を明確にする。

3 条件設定の意義(留意事項Ⅲ1(1))

条件設定は、鑑定評価の妥当する範囲及び鑑定評価を行った不動産鑑定士の責任の範囲を示すという意義を持つ。

4 補足

※同一不動産であっても、設定された条件によって鑑定評価額に差異が生ずるため、不動産鑑定士は直接依頼内容を確認すべきである(留意事項Ⅲ1(2))。また、条件の内容と評価における取扱いが妥当と判断した根拠は鑑定評価報告書に記載する(総論第9章第2節Ⅱ)。

(2) 対象確定条件について説明し、その条件設定の妥当性を検討する上で確認すべき点について述べなさい。なお、依頼目的に応じた対象確定条件の例示は不要である。

(2) 解答の骨子

1 対象確定条件の意義(総論第5章第1節Ⅰ1)

対象不動産の確定に当たって必要となる鑑定評価の条件を対象確定条件という。鑑定評価の対象とする不動産の所在、範囲等の物的事項及び所有権、賃借権等の対象不動産の権利の態様に関する事項を確定するために必要な条件であり、依頼目的に応じて設定される。

2 妥当性の検討において確認すべき点(総論第5章第1節Ⅰ2)

(1) 対象不動産に係る諸事項についての調査及び確認を行った上で検討すること。
(2) 依頼目的に照らして、鑑定評価書の利用者の利益を害するおそれがないかどうかの観点から妥当性を確認すること。

3 「利益を害するおそれ」の内容(留意事項Ⅲ1(2)①イ・ウ)

「鑑定評価書の利用者」とは、依頼者及び提出先等(総論第8章第2節で規定されるもの)のほか、法令等に基づく不動産鑑定士による鑑定評価を踏まえ販売される金融商品の購入者等をいう。
利益を害するおそれがある場合とは、現実の利用状況と異なる対象確定条件を設定した場合に、現実の利用状況との相違が対象不動産の価格に与える影響の程度等について、利用者が自ら判断することが困難であると判断される場合をいう。

4 関連する制限・手続

(1) 鑑定評価が利用者の利益に重大な影響を及ぼす可能性がある場合(証券化対象不動産、現物出資の目的となる不動産の鑑定評価等)には、原則として、現実の利用状況と異なる対象確定条件の設定をしてはならない(総論第5章第1節Ⅳ)。
(2) 条件設定に当たっては、依頼者との間で鑑定評価依頼契約上の合意が必要であり、妥当でないと認められる場合には、依頼者に説明の上、妥当な条件に改定しなければならない(総論第5章第1節Ⅴ)。

(3)① 未竣工建物等鑑定評価の定義を述べ、当該評価を行う場合に求められる要件について説明しなさい。

(3)① 解答の骨子

1 定義(総論第5章第1節Ⅰ1(5))

造成に関する工事が完了していない土地又は建築に係る工事(新築のほか増改築等を含む)が完了していない建物について、当該工事の完了を前提として鑑定評価の対象とすること(この場合の鑑定評価を未竣工建物等鑑定評価という)。
価格時点において、当該建物等の工事が完了し、その使用収益が可能な状態であることを前提として評価するものである(留意事項Ⅲ1(2)①ア)。

2 求められる要件(総論第5章第1節Ⅰ2なお書き)

(1) 対象確定条件一般の妥当性の検討(調査・確認、利用者の利益を害するおそれがないか)に加えて、
(2) 価格時点において想定される竣工後の不動産に係る物的確認を行うために必要な設計図書等を収集すること。
(3) 権利の態様の確認を行うための請負契約書等を収集すること。
(4) 当該未竣工建物等に係る法令上必要な許認可等が取得されていること。
(5) 発注者の資金調達能力等の観点から工事完了の実現性が高いと判断されること。

(3)② 証券化対象不動産について未竣工建物等鑑定評価を行う場合に求められる要件を述べ、その理由を説明しなさい。

(3)② 解答の骨子

1 要件(各論第3章第2節)

証券化対象不動産の未竣工建物等鑑定評価は、総論第5章第1節Ⅰ2なお書きに定める要件(上記(3)①2(1)〜(5))に加え、工事の中止、工期の延期又は工事内容の変更が発生した場合に生じる損害が、当該不動産に係る売買契約上の約定や各種保険等により回避される場合に限り行うことができる。

2 理由

(1) 証券化対象不動産の鑑定評価は、投資家及び購入者等の保護の観点から必要とされるもので(各論第3章第1節Ⅰ)、鑑定評価が利用者の利益に重大な影響を及ぼす可能性がある場合に当たる。このため、原則として現実の利用状況と異なる対象確定条件の設定は禁止され、未竣工建物等鑑定評価は例外として認められる(総論第5章第1節Ⅳ)。
(2) ※未竣工建物等鑑定評価は、未完成の状態にある不動産について竣工後の状態を想定して評価するため、工事の中止・延期・変更があると想定した前提が実現せず、評価額と実際の価値が乖離して投資家等に損害が生じるおそれがある。そこで、一般の場合の実現性の要件(許認可、資金調達能力等)だけでなく、万一そうした事態が生じても損害が売買契約上の約定や保険等によって回避されることを求め、利用者の保護を図るものである。

令和8年度 原価法と積算法

原価法及び積算法について、次の各設問に答えなさい。

(1) 原価法の定義及び当該手法をどのような場合に適用できるかを述べなさい。また、再調達原価の定義を述べ、再調達原価を求めることが困難な場合を挙げ、その代替手段について述べなさい。

(1) 解答の骨子

1 原価法の定義(総論第7章第1節Ⅱ1)

価格時点における対象不動産の再調達原価を求め、この再調達原価について減価修正を行って対象不動産の試算価格を求める手法である(この手法による試算価格を積算価格という)。

2 適用できる場合(総論第7章第1節Ⅱ1)

(1) 対象不動産が建物又は建物及びその敷地である場合において、再調達原価の把握及び減価修正を適切に行うことができるときに有効である。
(2) 対象不動産が土地のみである場合においても、再調達原価を適切に求めることができるときはこの手法を適用することができる。

3 再調達原価の定義(総論第7章第1節Ⅱ2(1))

対象不動産を価格時点において再調達することを想定した場合において必要とされる適正な原価の総額をいう。

4 再調達原価を求めることが困難な場合とその代替手段(総論第7章第1節Ⅱ2(1)なお書き・(2))

(1) 困難な場合:建設資材、工法等の変遷により、対象不動産の再調達原価を求めることが困難な場合。※例えば、現在では使用されない資材・工法で建築された古い建物の場合。
(2) 代替手段:対象不動産と同等の有用性を持つものに置き換えて求めた原価(置換原価)を再調達原価とみなす。
(3) 置換原価の意義:対象不動産と同等の有用性を持つ不動産を新たに調達することを想定した場合に必要とされる原価の総額であり、発注者が請負者に支払う標準的な建設費に発注者が直接負担すべき通常の付帯費用を加算して求める。

(2) 原価法の適用において、土地の再調達原価を求める方法について説明しなさい。

(2) 解答の骨子

1 基本(総論第7章第1節Ⅱ2(2)①)

土地の再調達原価は、その素材となる土地の標準的な取得原価に、当該土地の標準的な造成費と発注者が直接負担すべき通常の付帯費用とを加算して求める。

2 付帯費用(総論第7章第1節Ⅱ2(2)、留意事項Ⅴ(2)①イ・ウ)

通常の付帯費用には、引渡しまでに発注者が負担する通常の資金調達費用や標準的な開発リスク相当額等が含まれる場合がある。

3 熟成度の加算(総論第7章第1節Ⅱ2(2)①なお書き)

宅地造成直後の対象地の地域要因と価格時点における地域要因とを比較し、公共施設、利便施設等の整備及び住宅等の建設等により、社会的、経済的環境の変化が価格水準に影響を与えていると客観的に認められる場合には、地域要因の変化の程度に応じた増加額を熟成度として加算することができる。

4 具体的な求め方(総論第7章第1節Ⅱ2(2)③)

直接法:使用資材の種別、品等及び数量並びに所要労働の種別、時間等を調査し、直接工事費を積算し、これに間接工事費及び請負者の適正な利益を含む一般管理費等を加えて標準的な造成費を求め、さらに付帯費用を加算する。素地の価格や実際の造成費等の明細が判明している場合には、明細を分析して適切に補正し、必要に応じて時点修正を行う。
間接法:近隣地域若しくは同一需給圏内の類似地域等に存する類似の不動産又は同一需給圏内の代替競争不動産から、素地の価格や造成費等の明細を分析して補正し、必要に応じて時点修正を行い、地域要因の比較及び個別的要因の比較を行って間接的に求める。
いずれを適用するかは、収集した建設事例等の資料としての信頼度に応じて決め、必要に応じて併用する。

5 既成市街地の土地(総論第7章第1節Ⅱ2(2)②のかっこ書き)

再調達原価が把握できない既成市街地における土地については、取引事例比較法及び収益還元法によって求めた更地の価格に発注者が直接負担すべき通常の付帯費用を加算した額を用いる。

(3)① 下記①及び②の地域に存する土地について、一般的に、原価法が適用可能か否かを判定し、その理由を簡潔に説明しなさい。ただし、下記地域ごとに「適用可能」、「適用困難」の立場を明確にすること。なお、減価修正の観点からの説明は不要である。
① 工場地域(ただし、最近において造成された工業団地である。)

(3)① 解答の骨子

1 結論

適用可能である。

2 理由

(1) 土地のみの場合でも、再調達原価を適切に求めることができるときは原価法を適用できる(総論第7章第1節Ⅱ1)。
(2) 最近において造成された工業団地であるから、素地の取得価格や造成に要した直接工事費、間接工事費、一般管理費等、付帯費用の額及びその明細が把握しやすく、これらを分析して補正し時点修正を行う(直接法)か、近隣・同一需給圏内の類似の造成事例から間接法で、再調達原価を適切に求めることができる(総論第7章第1節Ⅱ2(2)①・③)。
(3) ※造成後間もないため、価格水準も造成時と大きく変わっていないと考えられ、熟成度の加算も大きな問題とはならない。

(3)② 下記①及び②の地域に存する土地について、一般的に、原価法が適用可能か否かを判定し、その理由を簡潔に説明しなさい。ただし、下記地域ごとに「適用可能」、「適用困難」の立場を明確にすること。なお、減価修正の観点からの説明は不要である。
② 住宅地域(ただし、造成後長い期間を経ている既成市街地である。)

(3)② 解答の骨子

1 結論

適用困難である。

2 理由

(1) 造成後長い期間を経ている既成市街地では、素地の取得原価や造成費の明細を把握することが難しく、再調達原価を適切に求めることができない場合が多い(総論第7章第1節Ⅱ1、Ⅱ2(2)②のかっこ書き:再調達原価が把握できない既成市街地における土地)。
(2) ※長期間に市街化が進み、社会的・経済的環境の変化が大きくなっていることから、熟成度による増加額を客観的に把握し加算することも難しい。
(3) このため、実際には、取引事例比較法及び収益還元法によって更地の価格を求め、これに付帯費用を加算して対応することとなる(総論第7章第1節Ⅱ2(2)②)。

(4) 積算法の定義を述べなさい。

(4) 解答の骨子

1 定義(総論第7章第2節Ⅱ1(1))

積算法は、対象不動産について、価格時点における基礎価格を求め、これに期待利回りを乗じて得た額に必要諸経費等を加算して対象不動産の試算賃料を求める手法である(この手法による試算賃料を積算賃料という)。

2 有効な場合(総論第7章第2節Ⅱ1(1))

対象不動産の基礎価格、期待利回り及び必要諸経費等の把握を的確に行い得る場合に有効である。

(5) 宅地の賃料(いわゆる「地代」)を求める場合において、積算法における基礎価格の定義及び基礎価格を求める方法並びに基礎価格を求める際の留意事項について述べなさい。

(5) 解答の骨子

1 基礎価格の定義(総論第7章第2節Ⅱ1(2)①)

積算賃料を求めるための基礎となる価格をいう。

2 基礎価格を求める方法(総論第7章第2節Ⅱ1(2)①)

原価法及び取引事例比較法により求める。※宅地(更地)の価格を求める手順は各論第1章第1節Ⅰ1に拠る。

3 基礎価格を求める際の留意事項(留意事項Ⅴ2(1)①、Ⅸ1(1))

(1) 最有効使用が可能な場合は、更地の経済価値に即応した価格である(留意事項Ⅴ2(1)①ア)。
(2) 建物の所有を目的とする賃貸借等の場合で、契約により敷地の最有効使用が見込めないときは、当該契約条件を前提とする建付地としての経済価値に即応した価格である(留意事項Ⅴ2(1)①イ)。
(3) 賃貸人等の事情によって使用方法が制約されている場合等で最有効使用の状態を確保できない場合には、最有効使用が制約されている程度に応じた経済価値の減分を考慮して求める(留意事項Ⅸ1(1))。
(4) 宅地の正常賃料は、賃貸借等の契約内容による使用方法に基づく宅地の経済価値に即応する適正な賃料である(各論第2章第1節Ⅰ2)。限定賃料の場合は、隣接宅地の併合使用又は宅地の一部の分割使用をする当該宅地の限定価格を基礎価格とする(各論第2章第1節Ⅰ3)。

令和8年度 試算価格の調整

試算価格の調整に関する次の各設問に答えなさい。

(1) 鑑定評価の三方式及び試算価格の定義を述べなさい。

(1) 解答の骨子

1 三方式(総論第7章冒頭)

不動産の鑑定評価の方式には、原価方式、比較方式及び収益方式の三方式がある。
・原価方式:不動産の再調達(建築、造成等による新規の調達)に要する原価に着目して価格又は賃料を求める。
・比較方式:不動産の取引事例又は賃貸借等の事例に着目して価格又は賃料を求める。
・収益方式:不動産から生み出される収益に着目して価格又は賃料を求める。

2 試算価格の定義(総論第7章冒頭)

不動産の鑑定評価の方式は、価格を求める手法と賃料を求める手法に分類され、それぞれの鑑定評価の手法の適用により求められた価格又は賃料を試算価格又は試算賃料という。

3 各手法による試算価格(総論第7章第1節)

原価法による積算価格(Ⅱ1)、取引事例比較法による比準価格(Ⅲ1)、収益還元法による収益価格(Ⅳ1)。このほか、三手法の考え方を活用した開発法等の手法がある。

(2) 試算価格の調整の定義を述べたうえで、試算価格の調整をどのように行うか述べなさい。なお、試算価格の調整に当たって留意すべき事項についての説明は不要である。

(2) 解答の骨子

1 定義(総論第8章第8節)

鑑定評価の複数の手法により求められた各試算価格又は試算賃料の再吟味及び各試算価格又は試算賃料が有する説得力に係る判断を行い、鑑定評価における最終判断である鑑定評価額の決定に導く作業をいう。

2 調整の行い方(総論第8章第8節)

(1) 対象不動産の価格形成を論理的かつ実証的に説明できるようにすることが重要である。
(2) このため、鑑定評価の手順の各段階について客観的、批判的に再吟味する。
(3) その結果を踏まえ、各試算価格が有する説得力の違いを適切に反映することにより行う。

3 関連

試算価格の調整を経て、専門職業家としての良心に従い適正と判断される鑑定評価額を決定する(総論第8章第9節)。※そのため、単純な算術平均によるのではなく、説得力の違いに応じて各試算価格を関連づけ、比較考量するという考え方になる。

(3) 試算価格の調整においては、「各手法に共通する価格形成要因に係る判断の整合性」に留意しなければならないとされている。建物の増改築・修繕・模様替等が行われ、建物の個別的要因である「設計、設備等の機能性」や「維持管理の状態」が向上した場合に、貸家及びその敷地の鑑定評価で原価法、収益還元法を適用するに当たって、当該価格形成要因に係る判断の整合性をどのように考慮すべきか説明しなさい。
なお、原価法、収益還元法の定義に関する説明は不要である。

(3) 解答の骨子

1 整合性の位置づけ(総論第8章第8節Ⅰ5、総論第3章第3節Ⅱ3・6)

各手法に共通する価格形成要因に係る判断の整合性は、各試算価格の再吟味の事項の一つである。「設計、設備等の機能性」及び「維持管理の状態」は建物に関する個別的要因であり、原価法・収益還元法のいずれにも共通して影響する。したがって、同一の事実認識(増改築等の内容、向上の程度、市場における競争力)を前提に、双方の手法に矛盾なく反映すべきである。

2 原価法における考慮

(1) 再調達原価:建物の増改築・修繕・模様替等は、その内容を踏まえて再調達原価の査定に適切に反映させる(留意事項Ⅴ(2)①ア)。
(2) 耐用年数に基づく方法:経済的残存耐用年数は、物理的要因及び機能的要因に照らした劣化の程度並びに経済的要因に照らした市場競争力の程度に応じ、効用が十分に持続すると考えられる期間であり、増改築・修繕・模様替等の実施が耐用年数及び減価の要因に与える影響の程度に留意する(総論第7章第1節Ⅱ3(2)①、留意事項Ⅴ(2)②イ)。
(3) 観察減価法:設計、設備等の機能性、維持管理の状態、補修の状況等の実態を調査して減価額を直接求め、個別分析の結果を踏まえた代替・競争関係にある不動産と比べた優劣及び競争力の程度等を適切に反映する(総論第7章第1節Ⅱ3(2)②)。
(4) 土地及び建物の再調達原価についてそれぞれ減価修正を行った上でさらに加算額について減価修正を行う場合は、同一の減価の要因について重複して考慮しない(留意事項Ⅴ(2)②ア)。

3 収益還元法における考慮(総論第7章第1節Ⅳ3)

(1) 純収益:総収益及び総費用の各項目の過去の推移及び将来の動向を慎重に分析して適切に求める。機能性・維持管理状態の向上は、※賃料水準や貸室の稼働率(空室率)、維持管理費・修繕費等の費用の水準・発生時期に反映されうる。DCF法の適用では、賃貸借契約の内容並びに賃料及び貸室の稼働率の毎期の変動、保有期間中の大規模修繕費等の発生時期に留意する。収益増加の見通しは予測の限界を見極める。
(2) 還元利回り・割引率:地域要因及び個別的要因の分析を踏まえて適切に求める。※建物の競争力や将来の収益の不確実性の変化は、利回りにも反映されうる。

4 整合を図る考え方

※(1) 原価法で機能的要因の減価が解消した、あるいは経済的残存耐用年数が延びたと判断するのであれば、収益還元法でもその市場競争力の向上を、賃料・稼働率・修繕費の水準などに根拠をもって反映する。逆に、収益に反映されない向上を原価法でのみ評価していないか確認する。
※(2) 一方の手法で反映した事情を他方で二重に評価し、あるいは反映し漏らすことのないよう、各手法の判断の根拠を対応づけて検証し、不整合があれば各手法の適用過程にさかのぼって再吟味する(総論第8章第8節)。

令和8年度 更地の鑑定評価

更地の鑑定評価について、次の各設問に答えなさい。

(1) 更地の定義を述べなさい。

(1) 解答の骨子

1 定義(総論第2章第2節Ⅰ)

更地とは、建物等の定着物がなく、かつ、使用収益を制約する権利の付着していない宅地をいう。

(2) 更地の鑑定評価額をどのように決定するか説明しなさい。

(2) 解答の骨子

1 基本(各論第1章第1節Ⅰ1)

更地の鑑定評価額は、更地並びに配分法が適用できる場合における建物及びその敷地の取引事例に基づく比準価格並びに土地残余法による収益価格を関連づけて決定する。

2 再調達原価が把握できる場合(各論第1章第1節Ⅰ1)

積算価格をも関連づけて決定すべきである。

3 面積が大きい場合等(各論第1章第1節Ⅰ1)

当該更地の面積が近隣地域の標準的な土地の面積に比べて大きい場合等においては、さらに次の価格を比較考量して決定する(この手法を開発法という)。
(1) 一体利用をすることが合理的と認められるとき:価格時点において、当該更地に最有効使用の建物が建築されることを想定し、販売総額から通常の建物建築費相当額及び発注者が直接負担すべき通常の付帯費用を控除して得た価格。
(2) 分割利用をすることが合理的と認められるとき:価格時点において、当該更地を区画割りして標準的な宅地とすることを想定し、販売総額から通常の造成費相当額及び発注者が直接負担すべき通常の付帯費用を控除して得た価格。

4 留意点

(1) 配分法及び土地残余法を適用する場合における取引事例及び収益事例は、敷地が最有効使用の状態にあるものを採用すべきである(各論第1章第1節Ⅰ1なお書き)。
(2) 土地残余法は、更地に最有効使用の賃貸用建物等の建築を想定し、収益還元法以外の手法によって想定建物等の価格を求めることができるときに適用できる(留意事項Ⅴ(4)①イ)。
(3) 地価公示法施行規則第1条第1項に規定する公示区域において土地の正常価格を求めるときは、公示価格を規準としなければならない(総論第8章第9節)。
(4) ※試算価格の調整(総論第8章第8節)を経て、鑑定評価額を決定する。

(3) 開発法の適用において、開発計画の想定及び事業実施計画の策定に当たって留意すべき事項を述べなさい。

(3) 解答の骨子

1 前提(留意事項Ⅷ1(1))

マンション等の敷地又は細区分を想定した宅地は、一般に法令上許容される用途、容積率等の如何によって土地価格が異なる。

2 開発計画の想定(留意事項Ⅷ1(1))

(1) 敷地の形状、道路との位置関係等の条件。
(2) マンション等の敷地については、建築基準法等に適合した建物の概略設計、配棟等に関する開発計画を想定する。
(3) 細区分を想定した宅地については、細区分した宅地の規模及び配置等に関する開発計画を想定する。

3 事業実施計画の策定(留意事項Ⅷ1(1))

想定した開発計画に応じた事業実施計画を策定することが必要である。

4 補足

(1) 開発計画は、一体利用又は分割利用が合理的と認められる場合に、最有効使用の建物の建築又は標準的な宅地への区画割りを想定するものである(各論第1章第1節Ⅰ1(1)(2))。
(2) ※事業実施計画では、販売時期、建築代金・付帯費用の支払時期等(基本式のn1〜n3の期間)や投下資本収益率の前提が、開発計画と整合するよう設定する。

(4) 以下を用いて、開発法の基本式を示しなさい。
P:開発法による試算価格 S:販売総額 B:建物の建築費又は土地の造成費 M:付帯費用 r:投下資本収益率 n1:価格時点から販売時点までの期間 n2:価格時点から建築代金の支払い時点までの期間 n3:価格時点から付帯費用の支払い時点までの期間

(4) 解答の骨子

1 基本式(留意事項Ⅷ1(1))

P = S/(1+r)n1 - B/(1+r)n2 - M/(1+r)n3

2 趣旨(留意事項Ⅷ1(1))

建築を想定したマンション等又は細区分を想定した宅地の販売総額を価格時点に割り戻した額から、建物の建築費又は土地の造成費及び発注者が直接負担すべき通常の付帯費用を価格時点に割り戻した額をそれぞれ控除して求める。

(5) 投下資本収益率(r)において考慮が必要となる開発リスクについて述べなさい。

(5) 解答の骨子

1 開発リスクの意義(留意事項Ⅴ(2)①ウ)

開発を伴う不動産について、当該開発に係る工事が終了し、不動産の効用が十分に発揮されるに至るまでの不確実性に関し、事業者(発注者)が通常負担する危険負担率を金額で表示したものを開発リスク相当額という。

2 考慮が必要となるリスクの例

※(1) 開発・許認可に係るリスク:開発許可や建築確認等の許認可、法令上の制約、近隣対応など、計画どおりに開発できない不確実性。
※(2) 工事に係るリスク:建築費・造成費の上昇、工期の遅延、地盤・土壌汚染・地中埋設物等の判明による工事内容や費用の変更。
※(3) 販売(需要)に係るリスク:販売価格の下落、販売期間の長期化、売れ残り等、市況の変動による販売総額・販売時期の不確実性。
※(4) 期間・金融に係るリスク:開発から販売までの期間が長いことによる金利・市況の変動、資金調達に係る不確実性。

3 留意点

(1) 開発リスクに対応する危険負担は、付帯費用に標準的な開発リスク相当額が含まれる場合がある(総論第7章第1節Ⅱ2(2))。
(2) ※投下資本収益率(r)と付帯費用(M)のどちらで開発リスクを考慮するかを明確にし、二重計上や考慮漏れが生じないようにする。また、想定した開発計画・事業実施計画(開発の規模、期間、販売の見通し)と整合するリスクの水準を反映させる。

注:本稿で根拠とした鑑定評価基準・留意事項は平成26年改正版である。令和8年度試験は令和7年9月1日時点で施行されている法令及び諸規程により出題されているため、条文の位置や文言が本稿の引用と異なる可能性がある。

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