【令和5年不動産鑑定士試験】鑑定理論(論文)解答

Claudeにつくらせました。

※は、基準・留意事項に直接の記載がなく、一般的理解で補った部分、または教材により呼称が異なる部分である。

令和5年度 建物の個別的要因と原価法への反映

不動産の個別的要因について、次の各設問に答えなさい。

(1) 個別的要因とは何か、簡潔に述べなさい。

(1) 解答の骨子

個別的要因とは、不動産に個別性を生じさせ、その価格を個別的に形成する要因をいう(総論第3章第3節)。

個別的要因は、土地、建物等の区分に応じて、土地に関する個別的要因、建物に関する個別的要因、建物及びその敷地に関する個別的要因に分けられる(同節Ⅰ〜Ⅲ)。

(2) 建物の各用途に共通する個別的要因のうち、「設計、設備等の機能性」及び「維持管理の状態」について、それぞれ留意すべき点を述べなさい。

(2) 解答の骨子

この2つは、建物の各用途に共通する個別的要因として例示されている(総論第3章第3節Ⅱ3・6)。

1 設計、設備等の機能性(留意事項Ⅱ2(1)①)
各階の床面積、天井高、床荷重、情報通信対応設備の状況、空調設備の状況、エレベーターの状況、電気容量、自家発電設備・警備用機器の有無、省エネルギー対策の状況、建物利用における汎用性等に特に留意する必要がある。

2 維持管理の状態(留意事項Ⅱ2(1)③)
屋根、外壁、床、内装、電気設備、給排水設備、衛生設備、防災設備等に関する破損・老朽化等の状況及び保全の状態について特に留意する必要がある。

(3) (2)の2つの個別的要因については、原価法の適用に当たり、どのように反映すべきか、それぞれ簡潔に説明しなさい。

(3) 解答の骨子

1 原価法における位置づけ
原価法は、再調達原価について減価修正を行って試算価格を求める手法である(総論第7章第1節Ⅱ1)。個別的要因は、減価修正において、減価の要因に基づく減価額として反映する(同Ⅱ3)。

2 設計、設備等の機能性
機能性の劣る部分は、減価の要因のうち機能的要因(機能的陳腐化。設計の不良、型式の旧式化、設備の不足及びその能率の低下等)に係る減価として反映する(同Ⅱ3(1)②)。
具体的には、観察減価法により、設計、設備等の機能性の実態を調査して減価額を直接求める(同Ⅱ3(2)②)。耐用年数に基づく方法では、機能的要因に照らした劣化の程度を経済的残存耐用年数に反映する(同Ⅱ3(2)①)。
※ 機能性と機能的要因の対応は、基準の例示に基づく整理である。

3 維持管理の状態
維持管理の不良による破損・老朽化は、物理的要因(使用による摩滅及び破損、時の経過又は自然的作用による老朽化、偶発的な損傷)に係る減価として反映する(同Ⅱ3(1)①)。
具体的には、観察減価法により、維持管理の状態、補修の状況の実態を調査して減価額を直接求める(同Ⅱ3(2)②)。耐用年数に基づく方法では、物理的要因に照らした劣化の程度を経済的残存耐用年数に反映する(同Ⅱ3(2)①)。
※ 維持管理と物理的要因の対応は、基準の例示に基づく整理である。

4 共通の留意点
耐用年数に基づく方法と観察減価法は併用する(同Ⅱ3(2))。観察減価法の適用では、個別分析の結果を踏まえ、代替、競争等の関係にある不動産と比べた優劣及び競争力の程度を適切に反映する(同Ⅱ3(2)②)。
また、増改築・修繕・模様替等の実施が耐用年数及び減価の要因に与える影響の程度に留意し、同一の減価の要因を重複して考慮しない(留意事項Ⅴ1(2)②ア・イ)。

(4) 次の建物の用途毎に特に留意すべき個別的要因は何か答えなさい。
① 事務所ビル(大規模な高層事務所ビルの場合の留意点についても触れること)
② 物流施設(大規模で機能性が高い物流施設の場合の留意点についても触れること)

(4) 解答の骨子

市場参加者が取引等に際して着目するであろう個別的要因は、建物の用途毎に異なる(総論第3章第3節Ⅱなお書)。用途毎に特に留意すべき個別的要因は、留意事項Ⅱ2(2)に例示されている。

① 事務所ビル(留意事項Ⅱ2(2)②)
基準階床面積、天井高、床荷重、情報通信対応設備・空調設備・電気設備等の状況及び共用施設の状態等に留意する。
大規模な高層事務所ビルの場合は、これに加え、エレベーターの台数・配置、建物内に店舗等の区画が存する場合における面積・配置等にも留意する。

② 物流施設(留意事項Ⅱ2(2)④)
階数、各階の床面積、天井高、柱間隔、床荷重、空調設備、エレベーター等に留意する。
大規模で機能性が高い物流施設の場合は、保管機能のほか、梱包、仕分け、流通加工、配送等の機能を担うことから、これらの機能に応じた設備や、各階への乗入を可能とする自走式車路の有無等に留意する。

令和5年度 土壌汚染と鑑定評価の条件設定

土地に関する価格形成要因の鑑定評価上の取扱いについて、次の各設問に答えなさい。

(1) 土地に関する個別的要因の一つである「土壌汚染の有無及びその状態」について、特に留意すべき点を述べなさい。

(1) 解答の骨子

1 価格形成への影響
土壌汚染が存する場合には、汚染の除去、汚染の拡散の防止その他の措置(汚染の除去等の措置)に要する費用の発生や土地利用上の制約により、価格形成に重大な影響を与えることがある(留意事項Ⅱ1(2))。

2 土壌汚染対策法の手続に応じた留意事項(同Ⅱ1(2)①〜③)
① 有害物質使用特定施設に係る工場若しくは事業場の敷地、又はこれらの敷地であった履歴を有する土地を含むか否か。これらに該当しない土地でも、特定有害物質による汚染が存する可能性があることに留意する。
② 土壌汚染状況調査を行う義務が発生している土地を含むか否か。
③ 要措置区域又は形質変更時要届出区域の指定がなされている土地を含むか否か(要措置区域を含む場合は、講ずべき汚染の除去等の措置の内容を含む)。また、過去にこれらの指定又は旧法の指定区域の指定の解除がなされた履歴がある土地を含むか否か。

3 補足
汚染の除去等の措置が行われた後でも、心理的嫌悪感等による価格形成への影響を考慮しなければならない場合がある(留意事項Ⅷ1(5)なお書)。

(2) 対象不動産に土壌汚染等の特定の価格形成要因が存することが判明している場合、「調査範囲等条件」を設定することができる要件を述べなさい。

(2) 解答の骨子

1 原則の取扱い
土壌汚染が存することが判明している不動産は、原則として、汚染の分布状況、汚染の除去等の措置に要する費用等を他の専門家の調査結果等を活用して把握し、鑑定評価を行う(留意事項Ⅷ1(5)、総論第8章第6節)。ただし、条件設定に係る一定の要件を満たすときは、依頼者の同意を得て、調査範囲等条件を設定して鑑定評価を行うことができる(同)。

2 調査範囲等条件を設定できる要件(総論第5章第1節Ⅲ)
① 不動産鑑定士の通常の調査の範囲では、対象不動産の価格への影響の程度を判断するための事実の確認が困難な特定の価格形成要因が存すること。
② 調査範囲等条件を設定しても、鑑定評価書の利用者の利益を害するおそれがないと判断されること。

3 要件の内容
①の価格形成要因の例は、土壌汚染の有無及びその状態、建物に関する有害な物質の使用の有無及びその状態、埋蔵文化財及び地下埋設物の有無並びにその状態等である(留意事項Ⅲ1(2)③ア)。
②の利用者の利益を害するおそれがないと判断される場合の例は、次のとおりである(同イ)。
・依頼者等による調査、査定又は考慮の結果に基づき、利用者が価格形成に係る影響の判断を自ら行う場合
・売買契約等において、当該要因に係る契約当事者間での取扱いが約定される場合
・担保権者が当該要因が存する場合の取扱いの指針を有し、その判断に資する調査が実施される場合
・当該要因が存する場合の損失等が保険等で担保される場合
・財務諸表の作成のための鑑定評価で、引当金の計上や注記など財務会計上、影響の程度が別途考慮される場合

4 その他の要件
依頼者との間で条件設定に係る鑑定評価依頼契約上の合意が必要であり(総論第5章第1節Ⅴ1)、設定した価格形成要因の取扱いを明確にする必要がある(留意事項Ⅲ1(2)③ウ)。証券化対象不動産の鑑定評価等では、原則として設定してはならない(総論第5章第1節Ⅳ)。

(3) 「調査範囲等条件」及び「地域要因又は個別的要因についての想定上の条件」について、それぞれの条件を設定することができる要件にどのような違いがあるか説明しなさい。

(3) 解答の骨子

1 調査範囲等条件の要件(総論第5章第1節Ⅲ)
通常の調査の範囲では影響の程度を判断するための事実の確認が困難な特定の価格形成要因が存する場合で、鑑定評価書の利用者の利益を害するおそれがないと判断されるときに限り設定できる。
要件は利用者の利益を害するおそれがないことであり、実現性・合法性は要件に挙げられていない。

2 想定上の条件の要件(同Ⅱ)
設定する想定上の条件が、利用者の利益を害するおそれがないかどうかの観点に加え、特に実現性及び合法性の観点から妥当なものでなければならない。
・実現性とは、条件を実現するための行為を行う者の事業遂行能力等を勘案した上で、条件が実現する確実性が認められることをいう(留意事項Ⅲ1(2)②イ)。
・合法性とは、公法上及び私法上の諸規制に反しないことをいう(同ウ)。
・地域要因について設定することが妥当と認められる場合は、計画及び諸規制の変更、改廃に権能を持つ公的機関の設定する事項に主として限られる(総論第5章第1節Ⅱ)。この場合、実現に係る権能を持つ公的機関の担当部局から、条件が実現する確実性を直接確認すべきである(留意事項Ⅲ1(2)②イ)。

3 違い
両者に共通する要件は、利用者の利益を害するおそれがないことである。想定上の条件には、これに加えて実現性及び合法性の観点からの妥当性が要求される点が異なる。
※ 想定上の条件は現実と異なる価格形成要因の内容を想定するため実現性・合法性が問われ、調査範囲等条件は現実の要因を所与として調査の範囲を明確にするものであるため問われない、と整理した(留意事項Ⅲ1(1)の条件設定の意義を踏まえた理解)。

※ 利用者の利益を害するおそれがある場合の意義も、両者で定め方が異なる(留意事項Ⅲ1(2)②ア、③イ)。想定上の条件では、設定した要因が価格に与える影響の程度等を利用者が自ら判断することが困難な場合をいう。

(4) 価格形成に影響があるであろうといわれている事項について、価格形成要因から除外して鑑定評価を行うことが可能な場合について述べなさい(ただし、鑑定評価の条件設定を行う場合を除く)。

(4) 解答の骨子

価格形成に影響があるであろうといわれている事項について、次のいずれかの場合において、当該事項が対象不動産の価格形成に大きな影響を与えることがないと判断されるときは、価格形成要因から除外して鑑定評価を行うことができる(留意事項Ⅵ4(2))。

① 一般的な社会通念や科学的知見に照らし、原因や因果関係が明確でない場合
② 不動産鑑定士の通常の調査において、当該事項の存否の端緒すら確認できない場合

要件の構造
①又は②に該当すること、かつ、大きな影響を与えることがないと判断されることの両方が必要である。
※ 調査範囲等条件を設定して鑑定評価を行う場合に当該要因を除外できる旨の定め(同なお書)は、設問により除かれている。

令和5年度 近隣地域と変動の原則・範囲の判定

不動産の鑑定評価における近隣地域について、次の各設問に答えなさい。

(1) 近隣地域の定義を述べなさい。

(1) 解答の骨子

近隣地域とは、対象不動産の属する用途的地域であって、より大きな規模と内容とを持つ地域である都市あるいは農村等の内部にあって、居住、商業活動、工業生産活動等人の生活と活動とに関して、ある特定の用途に供されることを中心として地域的にまとまりを示している地域をいい、対象不動産の価格の形成に関して直接に影響を与えるような特性を持つものである(総論第6章第1節Ⅱ1(1)①)。

(2) 不動産の価格に関する諸原則のうち、「変動の原則」について述べた上で、「変動の原則」に鑑み、近隣地域の地域分析に当たって留意すべき点を述べなさい。

(2) 解答の骨子

1 変動の原則(総論第4章Ⅱ)
一般に財の価格は、その価格を形成する要因の変化に伴って変動する。不動産の価格も、多数の価格形成要因の相互因果関係の組合せの流れである変動の過程において形成される。したがって、鑑定評価に当たっては、価格形成要因が常に変動の過程にあることを認識して、各要因間の相互因果関係を動的に把握すべきである。特に、最有効使用を判定するためには、この変動の過程を分析することが必要である。

2 近隣地域の地域分析における留意点
① 近隣地域は、その地域の特性を形成する地域要因の推移、動向の如何によって変化していく(総論第6章第1節Ⅱ1(1)①)。不動産の属する地域は固定的なものではなく、地域要因も常に変動するため、地域分析に当たっては、市場の特性の把握の結果を踏まえて、地域要因及び標準的使用の現状と将来の動向とをあわせて分析し、標準的使用を判定しなければならない(同Ⅱ1なお書)。
② 近隣地域の地域要因について、その変化の過程における推移、動向を時系列的に分析する。あわせて、周辺の他の地域の地域要因の推移、動向及びそれらの近隣地域への波及の程度等を分析する。この場合、市場の特性が近隣地域内の土地の利用形態及び価格形成に与える影響の程度を的確に把握する(留意事項Ⅳ1(1)④)。
③ 見込地及び移行地については、特に周辺地域の地域要因の変化の推移、動向が、変化の動向予測に有効な資料となる(同なお書)。

(3) 近隣地域の範囲の判定に当たって留意が必要な事項について、下記の区分から2つずつ挙げ、それぞれについてその理由を述べなさい。
① 自然的状態に係るもの  ② 人文的状態に係るもの

(3) 解答の骨子

近隣地域の範囲の判定に当たっては、基本的な土地利用形態や土地利用上の利便性等に影響を及ぼす事項に留意する(留意事項Ⅳ1(2))。

① 自然的状態に係るもの
ア 河川:川幅が広い河川等は、土地、建物等の連たん性及び地域の一体性を分断する場合があるため。
イ 山岳及び丘陵:河川と同様、連たん性及び地域の一体性を分断するほか、日照、通風、乾湿等に影響を及ぼす場合があるため。
(他に、地勢、地質、地盤等:日照、通風、乾湿等に影響を及ぼすとともに、居住、商業活動等の土地利用形態に影響を及ぼすため、がある。)

② 人文的状態に係るもの
ア 行政区域:行政区域の違いによる道路、水道その他の公共施設及び学校その他の公益的施設の整備水準並びに公租公課等の負担の差異が、土地利用上の利便性等に影響を及ぼすため。
イ 公法上の規制等:都市計画法等による土地利用の規制内容が、土地利用形態に影響を及ぼすため。
(他に、鉄道、公園等及び広幅員の道路等:連たん性及び地域の一体性を分断する場合があるため、がある。)

令和5年度 スケルトン貸し店舗用ビルの継続賃料の鑑定評価(差額配分法・利回り法)

継続中の建物及びその敷地(商業地域内のスケルトン貸しの店舗用ビル)の普通借家契約に基づく実際支払賃料を改定する場合の鑑定評価について、次の各設問に答えなさい。なお、現行賃料は、直近合意時点である新規契約締結時における新規賃料(正常賃料)相当額であるが、直近合意時点以降の、一般経済社会における消費者の賃金上昇と消費の活発化を受け、近隣地域の商業収益が向上したことで、対象不動産の価格時点における新規賃料と現行賃料との間に差額が発生しているものとする。また、契約内容は一般的なもので、特筆すべき契約締結の経緯等は無いものとする。

(1) 本問の鑑定評価額はどのように決定するかを簡潔に述べなさい(ただし、総合的に勘案する事項及び賃料の改定が契約期間の満了に伴う更新を契機とする場合において更新料が支払われるときについての記載は不要である)。

(1) 解答の骨子

1 賃料の種類と準用関係
本問は、普通借家契約に基づく実際支払賃料を改定する場合であり、求める賃料は継続賃料である(総論第5章第3節Ⅱ3)。建物及びその敷地の継続賃料を求める場合の鑑定評価は、宅地の継続賃料を求める場合の鑑定評価に準ずる(各論第2章第2節Ⅱ)。

2 鑑定評価額の決定
継続賃料の鑑定評価額は、現行賃料を前提として、直近合意時点以降の変動等のほか、契約の経緯等を勘案し、契約当事者間の公平に留意の上決定する(総論第7章第2節Ⅰ4)。
具体的には、差額配分法による賃料、利回り法による賃料、スライド法による賃料及び比準賃料を関連づけて決定する(各論第2章第1節Ⅱ2、同第2節Ⅱ)。

3 関連づけの内容(試算賃料の調整)
各試算賃料の再吟味と、各試算賃料が有する説得力に係る判断を行い、鑑定評価額の決定に導く(総論第8章第8節)。比準賃料は、継続賃料固有の価格形成要因の比較を適切に行って求める(総論第7章第2節Ⅲ4)。
※ 本問では、現行賃料が直近合意時点の新規賃料相当額であり、契約内容は一般的で特筆すべき経緯もないため、各手法の資料の特性・限界(総論第8章第8節Ⅱ2)を踏まえ、説得力の違いを反映して決定する、と整理した。

(2)① 差額配分法について、差額配分法の定義を述べ、当該手法の適用に当たり、賃料差額のうち賃貸人等に帰属する部分はどのように判断するか簡潔に説明しなさい。

(2)① 解答の骨子

1 定義(総論第7章第2節Ⅲ1(1))
差額配分法とは、対象不動産の経済価値に即応した適正な実質賃料又は支払賃料と実際実質賃料又は実際支払賃料との間に発生している差額について、契約の内容、契約締結の経緯等を総合的に勘案して、当該差額のうち賃貸人等に帰属する部分を適切に判定して得た額を実際実質賃料又は実際支払賃料に加減して試算賃料を求める手法である。

2 適用方法(同Ⅲ1(2)①)
適正な実質賃料は、価格時点において想定される新規賃料であり、積算法、賃貸事例比較法等により求める。適正な支払賃料は、契約に当たって一時金が授受されている場合には、実質賃料から一時金の運用益及び償却額を控除して求める。
※ 本問は実際支払賃料の改定であり、一時金の授受の有無は問題文に記載がない。

3 賃貸人等に帰属する部分の判断(同Ⅲ1(2)②)
継続賃料固有の価格形成要因に留意しつつ、①一般的要因の分析及び地域要因の分析により差額発生の要因を広域的に分析し、さらに、②対象不動産について契約内容及び契約締結の経緯等に関する分析を行うことにより、適切に判断する。
継続賃料固有の価格形成要因は、直近合意時点から価格時点までの期間における要因が中心であり、賃料の推移・改定の程度、土地及び建物価格の推移、公租公課の推移、契約の内容及びそれに関する経緯、賃貸人等又は賃借人等の近隣地域の発展に対する寄与度等が例示されている(各論第2章第1節Ⅱ1、同第2節Ⅱの読替え)。

4 本問へのあてはめ
※ 本問は、契約内容が一般的で特筆すべき契約締結の経緯がなく、差額の発生要因が近隣地域の商業収益の向上という市場要因にある。そのため、②の契約上の事情による調整よりも、①の広域的な分析(一般的要因・地域要因から差額発生の要因を捉えること)が判断の中心になる、と整理した。

(2)② 本問の近隣地域の地域要因のうち、一般経済社会における消費者の賃金上昇と消費の活発化とを受け変化したと考えられるものを1つ挙げなさい。その上で、その地域要因の変化に触れつつ、どのように近隣地域の商業収益が向上し差額が発生したと考えられるかを、具体的に説明しなさい(ただし、近隣地域及び地域要因の定義についての記載は不要である)。

(2)② 解答の骨子

1 地域要因の選定
商業地域特有の地域要因の例示(総論第3章第2節Ⅰ2)のうち、賃金上昇と消費の活発化で変化したと考えられるものとして、「商業背後地及び顧客の質と量」(同(2))を挙げる。
※ 選定は、基準の例示への当てはめによる。別解の候補は「繁華性の程度及び盛衰の動向」(同(8))である。

2 地域要因の変化
※ 賃金上昇により、顧客の購買力が向上する(質の向上)。消費の活発化により、来店客数や購買量が増加する(量の増加)。

3 商業収益の向上から差額発生までの流れ
※ 顧客の質と量の向上 → 近隣地域の店舗の売上増加(商業収益の向上) → テナントの支払可能賃料の上昇 → 価格時点における新規賃料の上昇 → 直近合意時点の新規賃料相当額である現行賃料との間に差額が発生。
賃料を収益面から把握する場合、事業の総収益を分析して賃料相当額を求めることがある(総論第7章第2節Ⅱ3 収益分析法)。商業収益の向上が新規賃料に反映される関係は、この考え方と整合する。

(3) 利回り法の定義と、利回り法における基礎価格の定義とをそれぞれ述べなさい。また、本問において対象不動産の基礎価格を求める際の留意点を説明しなさい。

(3) 解答の骨子

1 利回り法の定義(総論第7章第2節Ⅲ2(1))
利回り法とは、基礎価格に継続賃料利回りを乗じて得た額に必要諸経費等を加算して試算賃料を求める手法である。

2 基礎価格の定義
利回り法には基礎価格の独立した定義規定がなく、基礎価格及び必要諸経費等の求め方は積算法に準ずる(同Ⅲ2(2)①)。
積算法における基礎価格とは、積算賃料を求めるための基礎となる価格をいい、原価法及び取引事例比較法により求める(同Ⅱ1(2)①)。
※ この「積算法の準用」による整理は、教材により説明の仕方が異なる。

3 本問における基礎価格を求める際の留意点

① 建物及びその敷地の賃料(家賃)の基礎価格は、建物及びその敷地の現状に基づく利用を前提として成り立つ、当該建物及びその敷地の経済価値に即応した価格である(留意事項Ⅴ2(1)②)。

② 店舗用ビルでは、賃貸人は躯体及び一部の建物設備を施工するのみで賃貸し(スケルトン貸し)、内装、外装及び建物設備の一部は賃借人が施工することがある。そのため、積算賃料を求めるときの基礎価格の判定に当たって、これに留意する(留意事項Ⅸ2)。
※ 賃借人施工部分は賃貸人の投下資本に含まれないため、これを基礎価格に含めると賃料が過大となるおそれがある。基礎価格は賃貸人が施工・負担した範囲に対応する価格として判定し、必要諸経費等も同じ範囲で整合させる、と整理した。

③ 継続賃料利回りは、直近合意時点における基礎価格に対する純賃料の割合を踏まえ、継続賃料固有の価格形成要因に留意しつつ、期待利回り、契約締結時及びその後の各賃料改定時の利回り、基礎価格の変動の程度、類似の賃貸借等の事例における利回り等を総合的に比較考量して求める(総論第7章第2節Ⅲ2(2)②)。
※ このため、直近合意時点と価格時点の基礎価格は、スケルトン貸しの範囲を同じ前提で求めて整合させる必要がある。本問は現行賃料が直近合意時点の新規賃料相当額であるため、その時点の基礎価格に対する純賃料の割合を把握しやすい。

※ 引用した基準は平成26年改正版である。最新の改正が反映されているかは未確認のため、最終的には最新の基準で確認すること。

出題の要旨

国土交通省HPのコピペです。

【論文問題:問題1】
この問題は、不動産の個別的要因のうち、建物についての基本的な理解を問うものである。(1)は、不動産の個別的要因について、不動産鑑定評価基準に照らして的確に説明することを求めている。(2)及び(3)は、2つの要因についてどのような点に特に留意する必要があるか、また、原価法の適用において、これらの要因をどのように反映すべきかについて説明することを求めている。(4)は、建物の用途毎に特に留意すべき個別的要因にはどのようなものがあるか、不動産鑑定評価基準及び留意事項に照らして、的確に解答することを求めている。
【論文問題:問題2】
この問題は、土地に関する価格形成要因の鑑定評価上の取扱いについての基本的な理解を問うものである。(1)は、「土壌汚染の有無及びその状態」について特に留意すべき点を、(2)及び(3)は、鑑定評価上、「調査範囲等条件」及び「地域要因又は個別的要因についての想定上の条件」を設定することができる要件を、(4)は、条件設定以外に価格形成要因から除外して鑑定評価を行うことが可能な場合を、不動産鑑定評価基準及び留意事項に照らして、的確に説明することを求めている。
【論文問題:問題3】
この問題は、価格形成要因の分析の一つである地域分析における近隣地域についての基本的な理解を問うものである。(1)は、近隣地域の定義を、(2)は、不動産の属する地域は変動するものであることから、「変動の原則」に鑑み、近隣地域の地域分析に当たって留意すべき点を、(3)は、近隣地域は、価格形成要因の分析の仕方等によってその範囲が相対的に定まるものであることから、その範囲の判定に当たって留意が必要な事項を、不動産鑑定評価基準及び留意事項に照らして、的確に説明することを求めている。
【論文問題:問題4】
この問題は、継続中の建物及びその敷地の普通借家契約に基づく実際支払賃料を改定する場合の鑑定評価に関する基本的な理解と分析力を問うものである。(1)は、継続賃料の鑑定評価額の原則的な決定方法について問うている。(2)は、近隣地域が商業地域であることなどの題意を踏まえ、地域要因の変化に触れつつ、商業収益向上の原因と新規賃料上昇への影響を分析することを通じて、差額発生の要因等を具体的に説明することを求めている。 (3)は、基礎価格を求める際の留意点等について、対象不動産がスケルトン貸しの店舗用ビルであることを踏まえ、的確に説明することを求めている。

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