不動産投資で節税のため、あるいは規模を拡大していくために法人化は避けられません。
この記事では不動産賃貸業の法人化について解説します!
法人化するための2つの理由
個人で投資を進めているサラリーマン大家さんが法人化する理由は2つあります。
- 節税:所得を分散するため
- 事業化:常に買い進めることのできる「プロ」になるため
理由1:節税(所得税の分散)
所得税とは、個人の所得(収入から経費を差し引いた利益)に対して課税される税金です。
会社員の場合は給与に対して、自営業者はその事業利益に対して所得税が課されます。
所得税額は、所得から所得控除を差し引いた残額である課税所得に対し、その額に応じた税率をかけて算出されます。
所得税は以下の表のように収入に応じて変わります。
会社員でもともとの年収が高い人は、不動産所得が合算されると所得税率が30%、40%、45%とどんどん上がってしまいます。
いくら高利回りの物件を買ったとしても、税金が高くなれば手元にお金が残りません。
こうしたときは法人を設立して、法人が収益を得る形にすることで、個人の所得税がはね上がることを防ぎます。
個人から法人へ所得を移す方法はこちらの記事で解説しています。▼
また、法人は個人に比べて経費を計上しやすいです。
理由2:「事業化」して物件を買い進めるため
法人化するもうひとつのメリットは事業用融資(プロパー融資)が受けられることです。
基本的に、サラリーマン投資家は個人名義で融資を受けて物件を購入するのがスピードが早くやりやすいです。
ただし、個人には購入金額に限界があります。
金融機関によって変わりますが、各行ごとに融資限度額があり、そこまで到達すればそれ以上買い進むことができません。
また、サラリーマンの属性で個人融資が受けられていたのが、会社を辞めることで受けられなくなることもあります。
法人税は引き下げられる傾向
法人税は以下の3つに分けられます。
- 法人税
- 法人事業税
- 法人住民税
このなかでも法人税の税率は法人の種類、資本金の規模、所得金額により異なります。
法人税の税率は、普通法人、一般社団法人等又は人格のない社団等については23.2%とされています。
また、資本金1億円以下の普通法人、一般社団法人等又は人格のない社団等の所得の金額のうち年800万円以下の金額については15%とされています。

個人の所得税率が引き上げられているのに比べて、法人税に関しては徐々に引き下げる方向となっているため、所得税率が高いほど節税効果が得られます。
法人設立時に決めること
法人の設立時にはさまざまなことを決めなくてはいけません。
法人の代表
代表は基本的には誰でもいいですが、株式会社の場合は印鑑証明を取るため見ず知らずの人には頼めません。
副業禁止のサラリーマンで、自分が代表になれない場合は奥さんや親を代表にしてもらうことが多いです。
資本金
「資本金」とは、会社が事業を始めるにあたって会社で持っている運転資金のことです。
株式会社も合同会社も資本金1円から会社設立できるようになりました。
しかし、1円だと100円のボールペンを買っただけでも債務超過になってしまいます。
資本金×0.7%の登録免許税が必要になりますが、最低限必要な登録免許税が決まっており、株式会社だと15万円、合同会社だと6万円です。
そのため、資本金は10万円前後にしておくといいでしょう。
ちなみに、資本金が1,000万円を超えると会社設立1年目から消費税を納める義務が発生しますし、法人住民税均等割が約2倍以上(都道府県により異なる)になるため、注意が必要です。
定款
定款とは会社の活動を定め規制またはこれを記載した書面を指します。
基本的には、どういう事業をやっているかを書きます。
途中で代表者や住所、内部業務を変えたりするとその都度お金がかかるため、最初にしっかりと決めておかなければいけません。
不動産の賃貸・売買など以外にも教材の販売やコンサルティングなど可能性のあることはすべて書いておきます。
決算時期
一般の会社の決算月(3・6・9・12月)は税理士が多忙なので、1か月ずらすのがオススメです。
また、個人の確定申告は12月締めで3月15日が申告期限のため、11月を決算時期にすると慌ただしくなってしまいます。
5月や8月なら、個人と確定申告がかぶらないのでオススメです。
場合によっては税理士の閑散期ということで決算費用をオマケしてもらえるかもしれません。
本店所在地
法人の住所も決めます。
マイナンバー制度の開始に伴い、法人に対して法人番号が配布されています。
法人番号は個人番号(マイナンバー)と異なり、利用範囲の成約がなく公開され、誰でも自由に見ることができます。
法人番号は本店所在地から検索できるため、法人の所在地を自宅にすると法人を設立していることがわかってしまうことがあります。
そのため、サラリーマン大家で特に社宅に住んでいる人などは自宅を避けたほうが無難です。
実家の住所を使う人もいますが、取引のある銀行の営業エリアにしておきましょう。
懇意にしている司法書士や税理士事務所に登記させてもらっている人もいます。
また、現在はバーチャルオフィスやシェアオフィスのような低コストで会社登記できるサービスもあります。
郵便物もすべてそこへ行くので家族にもバレません。
法人化のための費用
法人をつくるためには、最初にかかる設立コストと、その後の税理士費用がかかります。
設立コストは約10万円〜
法人を設立するためにかかるコストは以下のものがあります。
- 登記に関る費用:登録免許税
- 定款に関わる費用:定款認証手数料、印紙代、定款の謄本費用
定款には「紙の定款」と「電子定款」の2つがあります。
「電子定款」とは、定款をPDFで作っておくことです。
紙で作ったものをPDF化し、代表者が作った旨の証明(電子証明)をおこない、役所等にPDFファイルとして提出します。
紙の定款だと印紙税が4万円がプラスで必要になるため、電子定款がオススメです。
また、株式会社は定款を公証人役場で認証を受ける必要があり、認証手数料が必要になります。
まとめると法人の設立費用は以下の表のようになります。
株式会社 | 合同会社 | |||
紙の定款 | 電子定款 | 紙の定款 | 電子定款 | |
印紙代 | 40,000円 | なし | 40,000円 | なし |
認証手数料 | 50,000円 | 50,000円 | なし | なし |
定款の謄本 | 2,000円程度 | |||
会社の印鑑 | 10,000円程度 | |||
登録免許税 | 資本金×0.7%(最低15万円) | 資本金×0.7%(最低6万円) | ||
合計(最低限) | 25~26万円 | 21~22万円 | 11~12万円 | 7~8万円 |
また、株式会社の場合は設立の際に発起人、取締役全員の個人の印鑑証明書が必要になります。
印鑑証明書は1通300円程度です。
法人設立は司法書士に頼めば手数料が3万円〜5万円ほどかかりますので、自分自身で行うのがオススメです。
「会社設立できるもん」というインターネットのサポートサービスがあり、定款の書き方なども見本があります。
合同会社についてはこちらの記事でも解説しています。▼
法人住民税は赤字でも7万円
会社を維持するために、年間の売り上げが無かった場合にも必要となる維持費が住民税の「均等割」です。
内訳としては、法人住民税5万円と地方税の2万円で合わせて7万円が毎年必要になります。

株式会社でも合同会社でも大きな違いはありません。
税理士費用は年30〜60万円
個人事業主として確定申告をする場合、わからないことがあれば税務署の無料相談会などで質問できます。
一方、法人の場合は決算日から2か月以内に申告しますが、専門用語などが難しいです。
税務署に聞きに行っても、必要な書類が不足して何度も通うことになるか、「税理士の先生に相談して下さい」と突き返されてしまいます。
そのため、法人の税務関係の仕事を税理士に依頼することが一般的です。
税理士費用や、不動産に強い税理士を探す方法はこちらの記事で解説しています。▼
法人でできる節税テクニック
法人だからこそ可能な節税テクニックをいくつか紹介します。
いいことばかりではなく、事務仕事が増えて煩雑になるデメリットもあります。
減価償却費のコントロール
建物や設備のように年々価値が減少する試算なを一定の期間にわたって費用処理することを「減価償却」といいます。
個人であれば「強制償却」といって絶対に減価償却しなくてはいけません。
それが法人になれば「今年は利益があまり出ていないから減価償却はやめておこう」とゼロにもできます。
それを「任意償却」といい、減価償却を自由にコントロールして、利益の調整弁として使うことができるのです。
減価償却の注意点はこちらの記事でも解説しています。▼
売却益の損益通算
個人で売却した場合は、売却益と売却損を組み合わせるしか通算できません。
つまり、売却益が出た年は税金が高くなってしまいます。
しかし、法人なら売却益とリフォームなどの経費と損益通算ができます。
売却が出た年に太陽光発電や外壁塗装、屋上防水工事などのリフォームを行うなど、税金のコントロールがしやすいです。

親族への所得分散
法人では自分だけに所得が集まらないように所得の分散をすることが可能です。
個人の場合でも、青色事業専従者給与によって配偶者に給料を支払う節税法はあります。
しかし、給与を支払う人数や金額には厳しい制限があります。
法人であれば、何人もの家族に経理や掃除などを担当してもらい、所得を分散できます。
たとえば、実家の近所にある物件の定期清掃を親に依頼するケースなどがあります。

身内は従業員ではなく役員にしよう
配偶者・子ども・親がいる場合は、一般の従業員ではなく役員にすることがオススメです。
なぜなら、役員になっているという時点で、法人に対して責任とリスクを背負うことになり、それほど労働が伴っていなくても、役員給与を経費として認めやすくなるためです。
一般の従業員に対する場合は、支払う給与手当が労働として見合うものなのか、というチェックが厳しくなります。

親族への給与は月8万円がオススメ
また、役員報酬として親族などに給与を支払う場合は月8万円がオススメです。
開業時に税務署で手続きをすると、配偶者や子ども、親への8万円の報酬は源泉徴収をしなくていいからです。
また、20万円を超えると申告義務が発生するため、20万円までにおさめるのがオススメです。

源泉徴収は半年に1回にまとめることも
源泉所得税とは、個人でも家族に給料を払っている人や、法人を運営している人が給料から引いて預かっている税金です。
通常は毎月払いますが、納期特例を適用していると源泉徴収は半年に1回まとめて払うことができます。
法人で物件を取得したときに司法書士に支払う税金や、決算時に税理士に支払う報酬からも源泉所得税が発生します。
年2回の支払いとともに、毎年1月末までに法人の昨年度の「給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表」の提出が必要になります。

法定調書とは、前年1年の間に法人から支払った以下の内容をもとめたものです。
- 役員報酬、給与
- 税理士事務所や司法書士等への報酬
- 家賃
- 不動産の売買取引
これらの数字をまとめて1月末までに税務署に提出しなければいけません。
源泉徴収票も作成してあわせて提出します。

書面作成はかなり面倒ですが、1年目にきちんと作成すれば2年目以降は短時間で準備できます。
企業版ふるさと納税
企業版ふるさと納税は企業を対象とした自治体への寄付に対する控除制度です。
損金算入による約3割に加えて、法人関係税が最大6割控除されるます。
つまり、全体として最大約9割の税の軽減効果が得られます。
最大控除の場合は約1割の負担で地域貢献することができるため、注目を集めています。

退職後の社会保険と雇用保険
法人がうまく機能して不動産投資で規模拡大を果たし、「会社を辞めよう」と思ったとします。
そのとき雇用保険や社会保険の知識が必要となります。
社会保険の加入が必須
個人事業主であれば、従業員5人以下であれば社会保険の加入は不要ですが、法人の場合は1人社長でも社会保険に加入しなければいけません。
年金事務所へ申請する書類は社会保険労務士に手数料5万円ほどで作成をお願いできます。
健康保険証も入手できます。

雇用保険の活用
退職時の注意点は、勤続年数によりますが本来であれば雇用保険がもらえることです。
雇用保険は「失業保険」ともいわれて、退職後に失業給付を受けることができます。
職業訓練校に通うこともできます。
ただ、自分が法人の代表になっていたら会社を退職しても雇用保険がもらえません。

サラリーマン時代に配偶者や両親に法人の代表をしてもらっていた人であれば、雇用保険をもらってから代表になるという選択肢があります。
まとめ
不動産賃貸業では節税のため、あるいは規模を拡大していくために法人化は避けられません。
ゆくゆくが法人化することを検討して、知識をつけていきましょう。
個人から法人へ所得を移す方法はこちらの記事で紹介しています。▼
読んで頂きありがとうございました。